歯肉上皮バリアは外来因子に対する生体防御の最前線で物理的バリアとして機能する。そのバリアの破綻が歯周炎の発症・進行と密接に関与していることが報告されており、申請者らも歯周病原細菌が歯肉上皮バリア機能を低下させることをこれまでに報告している。近年同定されたTransient receptor potential (TRP) タンパクファミリーは、温度・機械刺激・化学刺激などによって活性化されるカルシウムイオンチャネルで、様々な疾患との関連性が報告されている。上皮細胞に発現するTRPタンパクが皮膚や血管のバリア機能制御に関与することが知られているが、歯肉上皮のバリア機能におけるそれらの関与については報告がほとんどない。そこで本研究の目的は、TRPチャネルタンパクを介した歯肉上皮細胞のバリア機能制御を明らかにすることで、バリア機能向上という新しい視点から歯周炎予防・治療法の確立を目指すことである。 1年目は歯肉癌由来細胞株であるCa9-22を用いて、歯肉上皮バリアにおいてTRPアゴニストがバリア強化機能を持つかを明らかにすることを目標としてin vitroにおいて解析を行った。TRPアゴニストであるカプサイシンの前処置ののち歯肉上皮細胞株Ca9-22にTNF-a刺激を行うと、バリア関連遺伝子の発現が低下することが認められ、これまでの条件ではTRPV1アゴニストであるカプサイシンが歯肉上皮バリア機能を強化する明らかな傾向は認められなかった。 そこで昨年度はより生体に近い状態で検証するためSV40 T抗原を導入し不死化させた歯肉細胞株(epi 4)や正常初代培養細胞を用いて同様の解析を行ったが、バリア機能を強化する明らかな傾向は認められなかった。一方で炎症関連遺伝子に変動を認め、炎症をコントロールすることで歯周炎の病態形成に関与する可能性が示唆された。
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