研究課題/領域番号 |
19K24154
|
研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
周 君 昭和大学, 歯学部, 兼任講師 (40846507)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 象牙質 / ボンディング層 / 樹脂含浸層 / HEMA / ナノインデンテーション法 / 力学的特性 |
研究実績の概要 |
応力ひずみ曲線は材料機械特性の試験として情報量が多く,最も信頼性が高い.しかし引張・曲げ試験などの規格試験は均一な材料に適し,構造をもつ材料や生体材料には適していないため,局所の応力ひずみ特性を直接評価できる新たな試験方法の探求が求められている.硬組織は階層構造を有する天然の生体材料であり,材質的評価には構造に物性値を左右されない材料レベル,すなわちマイクロスケール以下の計測が重要と考えられる. 微小領域の機械特性試験としてはダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法が知られている.これは応力ひずみ特性における初期のコンタクトメカニクスである弾性係数を議論することができる一方で,バルク試験における最大強度,破壊抵抗性などの情報を獲得することはできない.球状圧子を用いたナノインデンテーション法では,材料表面への接触直後から応力場を制御しやすい.すなわち接触直後では弾性変形を生じ,荷重上昇に伴い塑性変形を発生する.このため理論上局所の応力ひずみ曲線から降伏点強度を議論することができるようになった.断面試料のレジン,ボンディング層,樹脂含浸層および象牙質の力学的特性はナノインデンテーション法を用いて比較評価した.測定には直径1マイクロメートルの球状圧子を用いてModulus mappingを行った.超微振動による動的試験 (Nano-DMAⅢ)を行い,変位と位相差から損失弾性係数を求めた.さらに損失弾性係数と接触剛性の関係から貯蔵弾性係数を求めた.15% HEMA+10-MDP含有接着剤とHEMAフリー10-MDP含有試作接着剤で貯蔵弾性係数を比較した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通法に用いる三角錐形状のバーコビッチ圧子に加え,球状圧子を用いて生体組織に対し,材料レベル(ナノスケール)での応力ひずみ曲線が得られることが証明された.球状圧子では低荷重領域で接触する先端付近の曲率を正確に求めることが難しい.圧子先端数ナノメートルの領域で材料への完全な接触が難しく,理論上求められる圧子先端形状の曲率は実際よりも大きくなることが多い.申請者らがヘルツの接触理論を応用した接触点補正方法を開発したことで,材料表面のナノレベルでの粗さを数学的に補正することができるようになった.このため,圧子先端のみを用いた構造材料(生体材料)の機械特性をマッピングすることが可能になり,これまで不可能であった生体組織と人工材料界面特性を数値化できるようになった.
|
今後の研究の推進方策 |
生体組織に対し,材料レベル(ナノスケール)での応力ひずみ曲線が得られることが証明された.球状圧子では低荷重領域で接触する先端付近の曲率を正確に求めることが難しい.圧子先端数ナノメートルの領域において研磨された平坦なサンプルへの完全な接触が難しく,理論上求められる圧子先端形状の曲率が実際よりも大きく見積もられることが多い.この点を解決すべく,ヘルツの接触理論を応用した接触点補正方法を開発したことで,表面ナノレベルでの粗さを数学的に補正することができるようになった.このため,圧子先端のみを用いた構造材料(生体材料)の機械特性のマッピングが可能になり,これまで不可能であった生体組織と人工材料界面特性を数値化することができるようになった.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大防止のためテレワークとなり,実験を実施する時間が制限されたため,今年度は物品費や学会発表にまつわる旅費などの支出が少なかった.本年度は生体材料分野の国際学会での発表のため出張旅費を申請する予定である.本研究ではコニカルタイプ(球状)のダイヤモンド圧子を用いることにより,マイクロスケール以下の応力ひずみ曲線を計測できる.既存のコニカルチップが破損しているため,新規購入するほか,試薬を購入する.
|