研究課題
ヒトの硬組織は階層構造を有する天然の生体材料である.構造をもつ材料や生体材料には構造に物性値を左右されない材料レベル,すなわちマイクロスケール以下の計測が重要と考えられる.微小領域の機械特性試験としてはダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法が知られているが,これは応力ひずみ特性における初期のコンタクトメカニクスである弾性係数を議論することができる一方で,バルク試験における最大強度,破壊抵抗性などの情報を獲得することはできないことが難点であった.本研究ではナノインデンテーション法で球状圧子を用いたことで,材料表面への接触直後から応力場を制御することが可能になった.つまり球状圧子が生体材料に接触した直後では弾性変形を生じ,荷重が増加するに伴い塑性変形を発生する.このため理論上局所の応力ひずみ曲線から降伏点強度を議論することができるようになった.断面サンプルのレジン,ボンディング層,樹脂含浸層および象牙質の力学的特性の測定にはナノインデンターに直径1マイクロメートルの球状圧子を装着し動的試験(モジュラスマッピング)を行った.モジュラスマッピングは,SPMイメージングと同時に,ナノインデンテーションの圧子に正確に制御された条件下で超微振動を起こし,ナノスケールの動的測定(nano DMA III)を行うことで,接着界面のナノ力学特性のマッピングを定量的に行う手法である.この試験で得られた変位と位相差から損失弾性係数を求め,損失弾性係数と接触剛性の関係から貯蔵弾性係数を求めた.15%HEMA+10-MDP含有接着剤とHEMAフリー10-MDP含有試作接着剤で貯蔵弾性係数を比較した.
3: やや遅れている
引張試験や曲げ試験などの規格試験は均一な材料に適し,構造をもつ材料や生 体材料には適していないため,局所の応力ひずみ特性を直接評価できる新たな試験方法の探求が求められている.応力ひずみ曲線は材料機械特性の試験として情報量が多く,最も信頼性が高いため,局所の応力ひずみ特性を直接評価できる新たな試験方法の探求が求められている.本研究で現在までに,ナノレベルの超微小領域で生体組織の応力ひずみ曲線が得られることが証明された.ナノインデンターの球状圧子では低荷重領域で接触する先端付近の曲率を正確に求めることが難しい.圧子先端のみを用いた生体材料の機械特性の評価が可能になり,人工材料の界面特性を数値化できるようになったが,コロナウイルス感染拡大防止のため,実験を実施する時間が制限されたことで進捗状況はやや遅れている.
HEMAとMDPの混合比が様々な濃度で試作されたHEMA含有試作接着剤を検証する際に,それぞれの接着剤におけるボンディング層の貯蔵弾性係数を評価する必要がある.これはMDPやHEMAの線重合がボンディング材に及ぼす影響を検証するためである.圧子先端数ナノメートルの領域において研磨された平坦なサンプルへの完全な接触が難しく,理論上求められる圧子先端形状の曲率が実際よりも大きく見積もられることが多い.この点を解決すべく,ヘルツの接触理論を応用した接触点補正方法を見出したことで,ナノレベルの表面粗さを数学的に補正することができるようになった.このため,圧子先端のみを用いた構造をもつ生体材料の機械特性のマッピングが可能になり,これまで不可能であった生体組織と人工材料との比較において界面特性を数値化することで評価が可能になった.
今年度はコロナウイルスの蔓延防止の観点から,学会がオンライン開催になったため予定していた旅費の支出がなく,次年度使用額が生じた.使用計画としては,今後コロナウイルスの状況が改善すれば,日本歯科理工学会,日本歯科保存学会などの現地開催が見込まれるため,旅費に充てる予定である.また,接着界面の力学的特性を測定する目的でナノインデンターに装着して使用する球状圧子が消耗しているため,購入する可能性がある.
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Frontiers in Immunology
巻: 12 ページ: 1-12
10.3389/fimmu.2021.624614
Cell Press
巻: 4 ページ: 3269-3285
10.1016/j.matt.2021.08.011
Exploration
巻: 1 ページ: 1-12
10.1002/EXP.20210011