研究課題/領域番号 |
19K24155
|
研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
山下 慶子 東京歯科大学, 歯学部, レジデント (50843538)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 運動性 / スピロヘータ / 遺伝子機能解析 |
研究実績の概要 |
この研究は,Treponema denticola の病原因子(Msp)の発現調節機構に関与する可能性のある遺伝子の機能解析を行うものである。2019年度の研究成果として,当初予想していた結果とは異なるが,興味深い知見が得られた。 まず,着目した遺伝子がT. denticola のどのような遺伝子発の現に関わるかをスクリーニングするため,DNA マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。この結果,TDE_0344の欠損は,T. denticola の病原因子をコードする遺伝子の発現量には影響を与えなかったが,本菌の鞭毛の機能と構成に関わる連続した遺伝子の発現が変化していることが分かった。この結果は,より定量性に優れたリアルタイムPCR によっても裏付けられた。 次に,この遺伝子レベルの変化により,本菌の表現型がどのような影響を受けているかについて解析を行った。TDE_0344欠損株における病原因子(Msp)の発現は,タンパクレベルでも野生株と同等であった。このことから,TDE_0344がコードするタンパクはMsp の発現調節には直接的には関与しないことが分かった。一方,欠損株が液体培地内で動いている様子を暗視野顕微鏡で観察すると,TDE_0344の欠損により引き起こされた鞭毛関連遺伝子の発現変動は,本菌の運動パターンに何らかの影響を与えていることが分かった。 以上より,この遺伝子は,Msp が存在するT. denticola の外膜または外環境からの何らかの刺激に対応する形で,本菌の運動性を調節していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に予定していた研究内容は,終了しているため,順調に進んでいると評価した。ただ,当初の仮説としていた,解析対象遺伝子TDE_0344がコードするタンパクがT. denticola の病原因子の発現調節に関わる可能性に関しては,DNA マイクロアレイ解析の結果,かなり低い或は直接的な調節ではないことが分かった。 病原因子(Msp)の発現調節機構の解明,という目的からはややずれるが,TDE_0344の欠損が鞭毛関連の遺伝子群の発現に影響することが分かったため,2020年度は,この2019年度に明らかになった現象から,新たな仮説を立て,更なる研究を進める。
|
今後の研究の推進方策 |
欠損株の作出時から,「欠損株と野生株で増殖曲線は近似しているのに,欠損株のコロニーの大きさが小さい」という現象はつかんでおり,運動性に変化が認められる可能性は想定していたため,大きな研究計画の変更はない。 2020年度は計画通りTDE_0344リコンビナントタンパクを作製しEMSA による解析を行い,バイオフィルム形成能についても評価する。2019年度の結果を踏まえ,より詳細な運動性の解析を追加する予定であるが,これは暗視野顕微鏡があれば行えるものであり,使用する備品についても現在使用中のもので問題ないことから,研究遂行上の課題も無い。
|