研究実績の概要 |
本研究は,歯周病原細菌Treponema denticola の病原因子Msp の欠損に伴って発現が変動する遺伝子,TDE0344の機能解析を通して,dysbiosis の機序の一端を明らかにすることを目的とした。 昨年度に作出したTDE0344欠損株の解析により,TDE0344はMsp の発現調節には直接的な関係がない一方,TDE0344の欠損は本菌の鞭毛に関わるタンパクをコードする遺伝子群の発現を変化させ,菌体の運動性にも何らかの影響を及ぼすことを明らかにした。2020年度は,TDE0344の欠損による鞭毛関連遺伝子の発現変化が,どのように運動性の変化に関わるのか,TDE0344欠損株の運動性の詳細な解析により明らかにすることとした。 運動性の評価は,軟寒天培地内のコロニーの広がり(直径)を指標とし計測した。TDE0344欠損株のコロニーの広がりは,野生株と比較して有意に小さかった。このことから,TDE0344の欠損は本菌の運動性を低下させたと考えられた。次に,TDE0344欠損株の菌体ごとの運動軌跡を解析した。その結果,TDE0344欠損株の単位時間ごとの移動距離は野生株と近似していたが,移動方向の転換(スイッチング)回数が,野生株よりも少ないことが分かった。以上より,コロニー形成における広がりの減少は,運動能の低下ではなくスイッチングの減少によると考えられた。このスイッチングの減少は,TDE0344の欠損により,鞭毛に関わる遺伝子の発現が変化した結果,鞭毛の協調運動が阻害され引き起こされたと考えられた。これらに加え,TDE0344合成タンパクの作製も完了した。 菌の運動性や定着に関わる因子は,dysbiosis のプロセスにおいて重要な役割を果たすことが知られており,今後は本研究で明らかにした本菌の運動性の変化がdysbiosis に寄与するか解析する予定である。
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