研究課題/領域番号 |
19K24158
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
安永 まどか 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 助教 (80845264)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 歯周組織オルガノイド / 自家歯牙移植 / スフェロイド / コラーゲン培養 / 細胞シート |
研究実績の概要 |
本研究課題は、予後の良い自家歯牙移植を実践するために、歯周組織オルガノイドを用いた再生療法の開発を目的としている。オルガノイド再生療法により、移植歯と受容組織における歯周組織複合体の再生・修復を良好に促すことが可能になると考えている。具体的には、オルガノイドにより移植歯におけるセメント質を含めた歯根膜の再生および受容組織における歯槽骨の再生を良好に行うことができる。令和元年度は1)3次元培養法を応用した歯周組織オルガノイドの作製と2)オートファジー関連因子による骨分化誘導の制御の2つを中心に検討した。1)については、歯周組織オルガノイド法について多細胞性シートおよびスフェロイドを用いたコラーゲン培養を応用して作製する計画である。そこで、本年度は多細胞性での展開に導くために、ヒト歯根膜幹細胞(human periodontal ligament stem cells,HPLSCs)を用いて通常培養によるセメントおよび骨への分化誘導を試み、それぞれの組織への分化誘導法について検討した。さらに、これらの分化誘導法を用いてHPLSCスフェロイド作製を行なった。セメント誘導HPLSCスフェロイドおよび骨分化誘導HPLSCスフェロイドを、それぞれコラーゲン・ゲルに埋入して分化誘導が亢進されることを確認した。2)では、分化誘導をより効果的に促進する方法を明らかにする目的で進めている。具体的には、オートファジー関連因子がHPLSCの骨分化誘導の制御に関連するかを検討した。HPLSCの骨分化誘導の促進には、AMPK/mTOR経路を介した骨分化の重要因子であるsmad経路が活性することが明らかとなった。これらの結果から、オートファジー経路を利用およびコラーゲン培養の組み合わせがオルガノイド形成の開発に有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調書に記載した研究計画に従って実施した結果、概ね期待していた結果を得ることが出来ている。本年度は歯周組織オルガノイドの作製に向けてた基礎研究として、スフェロイドとコラーゲン培養を組み合わせた培養法と分化誘導法を促進させる方法についての検討を主体に行なった。HPLSC細胞をセメントおよび骨への分化誘導を試みている。セメントへの誘導はPAI-1を用いて、骨分化誘導にはosteogenesis-induced medium (OIM)を細胞に1週間添加して誘導を行なった。分化誘導の確認はALP染色法、免疫細胞染色(ICC)法およびWestern blotting(WB)法で行なった。スフェロイドとコラーゲン培養を組み合わせた培養は、それぞれに分化誘導させたHPLSCを非接着性プレートに播種して単一のスフェロイドを作製した。作製した数個のセメント誘導HPLSCスフェロイドおよび骨分化誘導HPLSCスフェロイドをコラーゲン・ゲルに埋入すると、スフェロイドの融解が起こり構成されている細胞の再分散化がみられる。7~10日でコーラーゲン・ゲル内にはスフェロイド体は完全に消失するが、ゲル内は細胞が充満している状態になる。HPLSCスフェロイド/コラーゲンを構成する細胞、HPLSCスフェロイドを構成する細胞および平板培養で誘導を行なった細胞の分化誘導を比較検討を行なった。その結果、セメントへの分化マーカーであるCEMP-1発現および骨分化マーカーであるRUNX2とosterix(OSX)発現はICCおよびWBにおいても、HPLSCスフェロイド/コラーゲンからの細胞が最も発現が亢進していた。さらに、ALP染色性についてもスフェロイド・コラーゲンの組み合わせ群で染色性が強くなっていた。これらの結果から、歯周組織オルガノイド作製の準備ができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は「多細胞シートおよびスフェロイドを用いたコラーゲン培養による歯周組織オルガノイドの組織移植法の開発」を中心とした研究活動を行う。そのためには、歯周組織オルガノイド(多細胞性細胞シートと血管内皮細胞含有のスフェロイドの作製)を作製する。多細胞性細胞シートの作製についてはセメント芽細胞・歯根膜細胞・骨芽細胞の3層からなる複合体細胞シートの作製を行う。温度応答性培養を応用した細胞シート・キットを用いてHPLSCに各細胞への分化誘導試薬を添加して培養を行う。各細胞シート形成後、それぞれを積層して3層からなる複合体細胞シートを作製する。スフェロイドの作製についてはHPLSCと血管内皮細胞(HUVEC)の懸濁液を作製し、Low-binding plateで分化誘導を行いスフェロイドを作製する。また、スフェロイドを用いたコラーゲン・ゲルを組織移植に利用可能にするためにゲルの組織内での融解度と定着度の検索を行う。その後に多細胞シートスとフェロイド培養を用いたコラーゲン・ゲルの移植実験を行う。具体的にはラット下顎臼歯を用いた移植実験としてDemirelら(Springerplus 2016)の方法を応用する。抜歯後、受容側にオルガノイド含有コラーゲン・ゲルを埋入する。ゲル埋入後、移植歯を多細胞シートで覆い、ゲルが含まれた受容側に移植する。コントロールは受容側の未処理群を用いる。移植後の評価は、micro-CTおよび組織標本から組織学的・免疫組織化学的検索により評価を行う。判定は歯周組織の修復状態および歯根吸収の程度などから検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は本学で採択されているブランディング事業からの助成金の一部で、本研究課題内容の実験を遂行することが出来たため。また、次年度には当初予定していた額よりも、アッセイ関連の予算が必要であるために、当該年度の科研費使用を最小限に抑えた。
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