本研究課題の目的はワクチン接種政策、感染症対策への数理モデルの活用であり、令和3年度は日本における水痘ワクチン定期接種化の疫学的効果の評価と新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う公衆衛生対策が日本における水痘疫学動態に与える影響の検討を実施した。 日本では2014年10月より水痘ワクチンが定期接種化されており、水痘の報告数は急激に減少している一方で、水痘の初感染年齢の上昇が懸念されていることから、数理モデルを用いて水痘の1990年以降の水痘疫学動態を再構築するとともに、2033年までの将来の伝播動態の推定を実施した。分析の結果、年毎の水痘感染リスクは水痘ワクチン定期接種が開始された2014年以降10歳以下の年齢で低下が見られたのに対し、10歳以上の年齢で上昇が見られた。また、水痘ワクチンの定期接種開始前に出生したコホートでは、水痘に感染せずに感受性を持つ10歳以上の人口数が上昇することが示され、今後水痘ワクチン未接種の世代へのワクチン接種を検討する必要性が示唆された。 また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う公衆衛生対策により、水痘の報告数は2020年以降、ワクチン接種導入後と比較しさらに減少していることから、数理モデルを用いて2023年以降に感染力がパンデミック前と同程度か減少もしくは増加した場合の5つのシナリオに基づき2027年までの将来の伝播動態の推定を実施した。水痘感受性人口は緩やかな低下を続けており、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中はその低下に鈍化が見られたが、2023年以降も緩やかに減少を続けることが予測された。また、2023年以降、人流増加等の影響によりパンデミック前より感染力が50%上昇した場合においても水痘患者数が爆発的に増加する可能性は低いことが示唆された。
|