2021年度は、介護保険事業計画が自治体毎に策定されることを考慮して、居住自治体の要因が要介護高齢者の死亡場所のばらつきに与える影響について検討した。 介護給付費実態統計と人口動態統計死亡票等を用いて、2015年に亡くなった介護保険第1号被保険者を対象とした横断研究を行った。介護給付費実態統計と人口動態統計死亡票の個票データを居住市町村、性別、生年月、死亡年月日で照合して死亡場所を識別した。被説明変数は対象が在宅死したか否かであり、説明変数はAndersen’s behavioral modelを参考に、個人要因と市町村レベルの文脈的要因を設定した。level 1が個人、level 2が自治体、level 3を都道府県とするマルチレベルロジスティック回帰分析を行った。 その結果、居住自治体の要因は、要介護高齢者が在宅死するか否かの分散の7.2%を説明していた。都道府県の要因による影響(2.7%)よりも、自治体の影響の方が大きかった。自治体の要因の中で最も影響が大きかったのは医療介護資源であり、人口当たりの診療所数、人口当たりの医師数、65歳以上人口当たり訪問サービス介護従事者数が多い自治体の高齢者は在宅死の確率が高かった。一方で、人口当たりの病床数や65歳以上人口当たりの介護施設サービス従事者数が多い自治体の高齢者は在宅死の確率が低かった。 本研究の結果は、自治体の政策担当者が地域医療計画や介護保険事業計画を通して、住民の在宅医療・居宅介護サービスへのアクセスを向上させることによって、要介護高齢者の在宅死の望みを支援できる可能性を示している。日本は他国と比較して在宅死亡割合が低く、最期まで自宅で療養したい高齢者が多いにも関わらず在宅死が遂げられていない者が多い現状を鑑みると、入院病床や介護施設サービスの充実を目指す以上に在宅医療と居宅介護サービスの充実が必要だろう。
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