軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment; MCI)とは認知症の前駆状態という臨床的意義を有する。近年の研究によると、MCIの全てが認知症へと進展(コンバート)するわけではなく、正常の認知機能へ戻る場合もあることが明らかになった。認知症の危険因子として、糖尿病、高血圧、肥満、身体不活動、うつ病、喫煙および低教育といった可変的因子が明らかとなり、これらの複数の因子に対して同時に介入することが認知症の予防に有効である可能性が示された。 そこで本研究課題では、MCIを有する地域在住高齢における認知症の修正可能な危険因子の保有パターン、ライフスタイル活動の活動パターンを明らかにし、4年間のフォローアップにより危険因子の保有パターン、ライフスタイル活動の活動パターンとMCIから正常な認知機能への回復との関係を検討した。 その結果、MCIを有する高齢者の約3割が正常な認知機能に回復した。MCIを有する高齢者の修正可能な危険因子は、5つの保有パターン(①低リスク、②心理社会的、③健康行動、④低教育、⑤喫煙)に分類され、低リスクパターンは、他のパターンよりもMCIから正常な認知機能に回復する可能性が有意に高かった。 また、MCIから正常な認知機能への回復者は多面的なライフスタイル活動を維持しており、MCIから認知機能が低下した者は多面的なライフスタイル活動を中止または不活動となっており、MCIを維持した者は生産的な活動を維持していた。 これらの結果は、MCIを有する高齢者の認知機能が回復する可能性があるという先行研究を支持するものであり、MCIを有する高齢者の認知機能低下や認知症への移行を予防するために修正可能な危険因子の是正や多面的なライフスタイル活動の実施といった介入プログラムを立案するための有用な情報を提供する可能性がある。
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