研究実績の概要 |
本研究では,重症度特異的なQoL評価尺度を用い,認知機能と日常生活活動だけでなく,BPSD,苦痛や環境面との関連性を捉えて重度認知症者のQoLに影響を及ぼす要因を特定することを目的としていた。H31年度は,重度認知症者用のQoL評価尺度 (QUALID-J) と各変数との関連性を調査することとしていた。 対象者は105名(女性80名),平均年齢87.5±6.3であった。各評価指標の平均±標準偏差は,QUALID-J 28.6±7.3,MMSE 3.8±3.9,CTSD 13.1±9.1,PSMS 11.1±2.6,NPI-NH 13.5±14.8,CSDD 1.6±1.9,PAIN-AD 1.8±1.9,CCI 2.3±1.3であった。QUALID-Jの探索的因子分析を行ったところ,2因子(不快表出の因子,快表出の因子)に分けることができた。この結果をもとに,因子ごとに関連性のある指標をSpearman順位相関係数を用いて分析したところ,不快表出の因子はNPI-NH (ρ=0.635, p<0.01),CSDD (ρ=0.591, p<0.01),およびPAIN-AD (ρ=0.502, p<0.01)と有意な相関を認めた。快表出の因子はMMSE(ρ=-0.278, p<0.01),CTSD(ρ=-0.355, p<0.01),PSMS(ρ==0.373, p<0.01),およびPAIN-AD(ρ=0.385, p<0.01)との有意な相関を認めた。つまり,因子ごとに関わる要因が異なる点と,苦痛を表わすPAIN-ADは両方の因子と関連があることが明らかとなった。現在は相関のみの分析となるので,今後は重回帰分析を用いて因果関係をより深く考察する。
|