本研究では、致死的ではないCO濃度で死に至る機序の解明を目指し検討を行った。本研究は下記に示す順に遂行した。 ①CO中毒死事例の抽出及び臓器所見・検査所見データベース化 ②上記事例の全エクソーム解析の実施によるミトコンドリア遺伝子変異の抽出 法医解剖事例のうちのCO中毒死事例の性別、年齢、既往歴、火災情報(火元、発見状況など)、心臓や脳組織を中心とする臓器所見と各種生化学検査、メタボローム解析検査所見などのデータベース化を遂行した。次にCO中毒死事例の血液を使用してDNAの抽出を行い、次世代シーケンサーによる全エクソーム解析を行った。4種類の公開データベースで日本人におけるアレル頻度が0.5%未満の変異を検出した。さらに、解析ソフトウエアにて「有害変異」を判定をした。既知の変異については、HGVD(Human Genome Variant Database )と米国臨床遺伝・ゲノム学会のガイドラインを用いて評価した。未知の変異については、有害性を人工知能で予測した。CO中毒死事例において、各種臓器所見および検査所見に相関のある有効な因子を認めなかったが、1例ミトコンドリア変異が検出された。致死的ではないCO濃度であったが、ゲノム変異により一酸化炭素がミトコンドリア機能障害を起こしたのではないかと考えられた。今後、ゲノム検査を通じて得られた所見や各種検査記録のデータを蓄積することで、相関のある有効な因子をみつけられ、より正確な死因究明が可能となり、詳細な病態についての知見を臨床に還元することで死亡数の減少に繋がることが期待される。さらに本研究を通して得られた知見は、火災などの致死的一酸化炭素中毒死事例に限らず、発電機などの内燃機関やガス溶接・ガス溶断などの作業環境などその他の血中一酸化炭素ヘモグロビン濃度が上昇し得る状況においても応用が可能であると考えられた。
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