研究実績の概要 |
糖尿病合併症の発症、進展に性差があることが明らかとなり、性差医療、性差医学の推進の必要性が指摘されているが、過去の研究は欧米人に対象としたものが大半で、我が国において合併症とその危険因子に関して性差を明らかにした研究は稀である。そこで本研究では、5000人を超える日本人糖尿病患者のゲノムコホート研究において、環境因子、遺伝因子、発症した合併症の情報などを統合したデータベースを構築し、糖尿病合併症の発症や、環境的、遺伝的要因の性差を検討した。 本研究期間では、登録時データを用いた横断研究において、排便習慣と合併症の危険因子である血糖コントロールの指標であるHbA1c値との関連を検討し、排便回数が少ないほどHbA1c値が高値であること明らかにし、男女別の検討においても同様の関係がみられることを報告した。また、喫煙、身体不活動、早食い、食物線維摂取が少ないなどの健康的でない生活習慣の該当数が多いほどHbA1cは高値で、この関連性は2型糖尿病疾患感受性遺伝子UBE2E2(rs6780569)のリスクアレル(GG)を持つ群で強かったが、男女間に違いはみられなかった。 また、追跡データを用いた前向き研究において、年齢を調整後の死亡率(男性 8.6, 女性3.5)、脳梗塞の発症率(男性 4.9, 女性 2.1)(いずれも1,000人年あたり)は、女性に比べ男性で有意に高い一方で、骨折は男性に比べ女性で発症率が高いこと(男性 10.7, 閉経後女性 18.8)を明らかにした。 合併症の危険因子に関して、骨折発症について解析を行い、高血糖のみならず重症低血糖もリスクの増加と関連し、この関連性は男女同様にみられたことを報告した。また、高血糖は脳梗塞の発症リスク増加とも関連するが、この関係には性差があり、女性においてその影響が大きい傾向があることを明らかにした。
|