転倒は、高齢者にとって健康寿命や生活の質の維持・向上を阻害する要因である。一般的に、急性期病院からの退院患者では、退院後初期の再転倒が多いという報告があり、地域在住高齢者より病院からの退院患者の方が転倒する割合が高いとされている。病院での在院日数短縮が加速化している昨今の医療情勢において、十分に動作レベルの回復がしていない、いわゆる転倒予備群の自宅退院の増加が見込まれており、退院患者の転倒に関連する要因を検討することは喫緊の課題である。近年、転倒予防対策に、住環境整備などの外的要因に関する戦略が用いられてきており、住環境と転倒との関連性を検討していくことは、退院後の再転倒を予防するといった観点からも、非常に重要性が高いと考える。しかしながら、従来の報告では、トイレ・浴室・上がり框等の段差改修や手すり設置を中心とした住環境整備の報告が多く、転倒が最も多い居室を含めた生活動線内での、安定した歩行のための具体的な対策がなされていないことが多い。 そこで、本研究では、生活動線内にある家具・建具の移動介助的機能(手すりの代替として使用できる機能を持った机・棚や、椅子の代替として使用できる機能を持った棚など)に着目して研究を遂行した。結果として、本研究では対象退院患者の転倒発生回数が想定よりも少なく、家具・建具に着目した詳細の検討はできなかった。そのため、代替案として、(コロナ渦で退院患者のデータ再収集が出来なかったこともあり)地域在住高齢者において、同様の目的にて継続解析を行った。その結果、転倒の有無と、生活動線上にある家具・建具の有無において、有意な関連性は認められなかった。今後、コロナ渦が落ち着けば、退院患者のデータの再収集を行っていき、関連性の検討を継続していく。
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