研究課題/領域番号 |
19K24239
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
花房 謙一 目白大学, 保健医療学部, 教授 (70846865)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 肺炎 / リハビリテーション / 質的研究 / 機能改善 / 生活行為改善 / 再発予防 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,リハビリテーションの観点から日常生活動作に着目した肺炎患者のクリニカルパスを作成することである. 今年度は,肺炎患者の日常生活動作能力の改善に取り組んでいる臨床現場の作業療法士9名に対して,遠隔でのフォーカスグループインタビューを半構造的面接にて行い,質的研究を実施した.フォーカスグループインタビューでは,アンケート調査で抽出できない各作業療法士の臨床経験が具体的に抽出され,質的研究支援ソフトを用いて逐語録を作成しコード化を行った.そして,それぞれのまとまりにおいて,類似性と相違性から分類を行い,同じ意味を持つコードのグループを作成し,グループごとに最も意味をよく表すと考えられる名前を付けて,サブカテゴリー・カテゴリーと抽象度を高めた.分析過程においては,研究協力者のチェックと質的研究に長けた共同研究者のスーパービジョンを受け,確証性の確保に努めた. 結果として,市中肺炎患者に対する作業療法士の取り組みは,「機能の改善」,「生活行為の改善」,「再発予防」の3つのカテゴリーに分類された.このカテゴリーの中で,「機能の改善」や「生活行為の改善」は従来から示されているものであるが,「再発予防」に対する取り組みは新しい知見であった.従来,肺炎患者のリハビリテーションは肺炎に対する内科治療後の後療法として,安静臥床に伴う廃用症候群の改善にフォーカスが当てられ,いかに廃用を抑えて日常生活動作能力を低下させないようにするかといった点が検討されている.しかし,「再発予防」の取り組みは,次に肺炎に罹患して再入院しないための取り組みであり,いわゆる後療法よりも前向きな取り組みである.この知見を報告するために,今回の研究は原著論文として取りまとめ,学術誌「作業療法」に投稿し,現在は審査結果を待機している状態である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,初年度に市中肺炎患者のリハビリテーション状況を調査し,次年度は初年度の調査結果から市中肺炎患者の取り組みが優れた施設のリハビリテーションプログラムを参考として,多施設での介入調査を実施し,市中肺炎患者に対する有効なリハビリテーションクリニカルパスの提言を行うことが目標であった.しかし,当初予想しなかった新型コロナウイルスの流行により,介入調査の実施が不可能となった. 2020年度は介入調査の可能性を探りながら,準備を進めて新型コロナウイルスの鎮静化を願っていたが,最終的に研究協力施設から介入調査の協力は不可能と連絡を受け介入調査の実施を断念した. 2021年度は,介入調査の協力は不可能であるが,臨床現場の作業療法士に対する遠隔でのインタビュー調査は協力が可能であるということから,質的研究による市中肺炎患者のリハビリテーションの望ましい介入を調査することとなった.2021年度は,研究協力施設の作業療法士の協力により,市中肺炎患者に対するリハビリテーションの望ましい取り組みの提言といった成果を得ることができた.しかし,当初の目的のリハビリテーションクリニカルパスの提言には至らず,昨年度より研究は大きく前進したが,本研究課題の進捗状況としては,やや遅れていることが否めない状態である.
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今後の研究の推進方策 |
肺炎患者の診療のおいて,従来のように安静・薬物療法が終了した後に,その治療期間で生じた廃用症候群に対してリハビリテーション(以下,リハ)を実施するという考え方は,入院期間を短縮させ,自宅復帰率を向上させる上では適切な取り組みではない.多くの施設でリハの診療保険請求が,肺炎に起因する廃用症候群として実施されていることに違和感を感じている.肺炎の診療における安静・薬物療法は必要最小限にして,できるだけ早期から頻回のリハの介入を廃用症候群に対するリハではなく,肺炎に対するリハとして取り組むプログラムを推奨したい.研究期間を延長して,介入研究の可能性を探ってきたが,新型コロナウイルスの鎮静化は期待に薄く,介入調査による研究結果を示すことは次年度も難しいことが予測される. 次年度においても介入研究が困難であると予測されることから,今年度に実施した質的研究の成果を論文として公表するだけでなく,学会発表を行うことで多くの研究者から様々な意見を聞き,その考えを取り入れて,最終的な報告につなげていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は本来,介入研究として計画し,研究協力施設や被験者に協力費を支払う形で研究費を試算した.また,研究者が研究協力者を集めて会議を実施することや研究者自身の旅費,学会参加費なども予算に計上していた.しかし,質的研究を遠隔で行うこととなり,遠隔の会議に必要な物品のみで対応できたことや,学会そのものも遠隔で開催されていることから当初予定していた予算額より使用した経費が少なくなった. このように介入調査から遠隔での質的研究に変更せざるを得ない状況から,次年度の使用額が生じた. 次年度は研究の最終年度として,論文の公表や学会参加に必要な費用として使用することを計画し,最終年度として提言が十分にできるように研究成果をまとめたい.
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