研究課題/領域番号 |
19K24250
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
乙丸 礼乃 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (00849416)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | RSV / 世帯内感染 |
研究実績の概要 |
Respiratory Syncytial Virus (RSV) は、乳児で特に重症化しやすいウイルス性呼吸器感染症の原因ウイルスである。全年齢で感染が見られ、世帯内感染の重要が指摘されているが、ウイルスがどのような年齢層から乳児に伝播するのかについて詳細な疫学は明らかではない。本研究では、RSVの乳児への感染拡大を規定する因子を検討することを目的とする。 フィリピンビリラン島で実施した5歳未満児のいる世帯を対象とするコホート研究で、2018-2019年に、特にRSV流行中に焦点をあてデータ収集を実施した。RSV流行中に定期的な世帯訪問で症状を観察し、呼吸器感染症症状のある研究参加者を対象に迅速診断キットを用いてRSV感染の検出を行った。その後のフォローアップ期間で陽性であった研究参加者とその家族から症状に関わらず鼻腔スワブ検体を採取した。得られた検体に対しRSV検出およびG遺伝子のヌクレオチドシーケンスを行い、サブグループ判定およびウイルスゲノム配列の比較を行った。 研究に参加した世帯は115世帯 (506人) であり、乳児のいる世帯が65世帯、1-4歳児のいる世帯が50世帯であった。RSVの流行は10月(第40疫学週)から開始し、12月末 (第52疫学週) まで観察された。流行中、42世帯でフォローアップ検体を採取した。世帯に属する173人のうち53.2% が一度はRSV陽性となっており、高い二次感染率が明らかであった。フォローアップを実施した世帯に居住する90%の乳児が期間中1度は陽性となっていた。ウイルスゲノム配列の解析が可能であったフォローアップ検体で、家族で異なる配列のウイルスに感染していたと考えられる世帯はなく、感染伝播が世帯内で起きていた可能性が高いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検体からのRSV検出およびG遺伝子のシーケンスについておおむね終了している。これらのデータを用いた解析を実施中であり、ほぼ予定通りに進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、特に家族構成と同居家族の年齢層に着目してどのように世帯内での感染伝播が起きたかについて、疫学的解析を進める。成人でのRSV感染症は軽症であることが多いと報告されているが、感染伝播への関与は不明である。全年齢の急性呼吸器感染を対象としたサーベイランスを実施した先行研究では、高齢者でも数多くの陽性例が検出されることが報告されており、本研究でも60代の家族の感染が見られていることから、世帯内での伝播にも関与していることが考えられる。さらに、フォローアップで採取した検体中のウイルス量の時系列変化について定量PCRを用いて解析し、感染性に関する各年齢層の特徴が感染伝播とどのように関連するかを検討する。G遺伝子以外のウイルスゲノモウ配列についても可能な限りデータをそろえ、地域内での感染伝播について分子疫学的知見を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的にウイルスの検出などを実施できたこと、また、新型コロナウイルス感染症流行の影響により、共同研究者であるフィリピン熱帯医学研究所への出張を実施しなかったことにより残金が発生した。次年度に出張を再計画し、共同研究者らとの議論を充実させることで研究成果へとつなげていく。
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