本研究では、慢性肝疾患患者のサルコペニア予防に資する以下の3つの成果を得た。①65歳以上慢性肝疾患患者における身体活動量の男女別の特徴、②肝疾患患者におけるサルコペニア診断のための第3腰椎レベル骨格筋量の新たな基準値、③肝疾患診療に関わる外来および病棟におけるサルコペニアの評価、対策の普及状況についてである。 身体活動量の男女別の特徴について、65歳以上で慢性肝疾患の定期外来受診中の20名(男性7名、女性13名、平均年齢72.3歳)に対し、約4週間に渡って身体活動量を計測した。1週間の平均身体活動量は33.7METs-時間であった。男性は歩行による身体活動が31.6METs-時間と女性5.2METs-時間に比べて多かった。家事等を想定する生活活動では活動量に性差は見られなかった。また、20名のうちデータが得られた18名は約1年間で骨格筋量が約1%減少した。変化率と性差の関連は明らかにならなかった。 次に、骨格筋量の診断基準について、589名のデータを解析し、男性、女性の新たな基準値を示した。男性45.5cm2/m2、女性35.2cm2/m2であった。これらの基準値を適用すると、これまでに比べ、男性ではサルコペニアが増加、女性では減少する可能性が示された。 最後に、サルコペニアの評価や対策の普及状況およびその要因について肝疾患の病棟や外来を対象に調査した。その結果約38%の外来または病棟でサルコペニアの評価や対策が行われていた。具体的には握力の測定が最も多く、対策では栄養指導や運動療法が中心であった。日本肝臓学会による肝疾患認定病院を対象とした本調査であっても実施率は50%に満たない状況であったことから、今後、サルコペニアの評価や対策が広く導入されるようエビデンスの蓄積やプロトコールの開発が必要であることが示された。
|