急速なゲノム医療推進下にある日本で、以下の2つの研究を実施し、日本の医療機関における遺伝情報取り扱いの実態調査データを取得した。またその背景(遺伝情報の管理に対する施設・医療者の考え)についてを調査した。 ①大規模医療機関20施設についての実態調査(臨床遺伝専門医20名に対するインタビュー研究) 対象になった20施設は大学病院15施設、がん専門施設4施設、小児専門病院1施設であり、すべての施設に電子カルテシステムが導入されていたが、診療で得た遺伝情報を全て電子カルテに記載し、アクセス制限なく共有管理している施設は5施設(25%)にとどまった。医療の現場で取得される遺伝情報の一部は電子カルテに記載されず、より限られた医療者だけが閲覧可能となっている項目があり、その項目は未発症・保因者の情報、家系図、遺伝カウンセリング記録などの複数項目に分かれていた。また遺伝情報を全てアクセス制限している施設も2施設(10%)存在した。アクセス制限を設けている背景として、医療従事者の遺伝リテラシーに対する信頼度の低さや漏洩時の患者の社会的不利益に対する懸念、医療界のコンセンサスの不在、遺伝子例外主義の思考も混在していた。しかし一方で、遺伝情報だけが漏洩して患者の不利益になるのではないことや、遺伝情報を特別に扱う医療者の意識こそが差別的であるという見方もあり、遺伝情報の特徴そのものだけが管理を多様化させたとは言い切れない結果となった。これらについては第44回日本遺伝カウンセリング学会学術集会で研究の一部を発表、多くの反響を得て、第32回日本生命倫理学会学術集会にてシンポジウム発表された。 ②臨床研修病院1037施設に対する質問紙調査 上述の研究結果を踏まえ、質問項目を洗練して質問紙を作成した。対象を一般病院にも広げて1037施設にアンケートを郵送し、258施設より回答を得て、現在解析中である。
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