研究課題/領域番号 |
19K24291
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
山口 慎史 順天堂大学, スポーツ健康科学研究科, 特任助教 (60847630)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | ヴァルネラビリティ / メンタルヘルス / ストレス反応 / 性格特性 |
研究実績の概要 |
アスリート・スポーツ選手を対象とした傷つきやすさ(ヴァルネラビリティ)に関する研究は依然として少ないのが実情である。その中で2019年度に引き続き2020年度では、①ヴァルネラビリティと性格特性との関連、②ヴァルネラビリティとストレスコーピングとの関連、③ヴァルネラビリティとメンタルヘルスとの関連。について研究を行った。 ①ヴァルネラビリティと性格特性との関連については、Big-fiveやうつ親和性性格特性との関連性を検討していった。その結果、神経症傾向の得点が高い者ほどヴァルネラビリティの得点が高いことが明らかとなった。 ②ヴァルネラビリティとストレスコーピングとの関連については、傷つきやすい者ほど情動焦点型コーピングを用いやすく、男性では問題焦点型コーピングを、女性では情動焦点型コーピングを用いることでストレス反応が低減することが示されている。しかし、中には適さない方略(下位尺度)も存在したため、下位尺度ごとに検討したところ、男性アスリートでは問題解決の方略を、女性では感情表出の方略を用いることによって抑うつ症状が低減することが明らかになった。 ③ヴァルネラビリティとメンタルヘルスとの関連では、メンタルヘルスおよび抑うつ症状との関連や影響について検討した。これまでの研究ではヴァルネラビリティと抑うつ症状には正の相関が示されていた。その上で、傷つきやすい者は傷つきにくい者より、約1.7倍抑うつ症状が発現しやすいことが明らかとなった。また、因果関係の推定を行った結果、これらの2変数は、原因がヴァルネラビリティで、結果が抑うつ症状と位置づき、傷つくことにより、抑うつ症状を呈することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度では2019年に引き続き、「ヴァルネラビリティの促進要因および抑制要因の解明」をテーマに研究を進めた。このテーマを遂行するために、①ヴァルネラビリティと性格特性との関連、②ヴァルネラビリティとストレスコーピングとの関連、③ヴァルネラビリティとメンタルヘルスとの関連と、主に3つの観点から研究を行い、ヴァルネラビリティに関する基礎研究を蓄積してきた。性格特性(Big-five、うつ親和性性格特性)との関連や、メンタルヘルス(精神的健康度、抑うつ症状)との関連および影響について、この2年間で少しずつではあるが明らかとなってきている。さらに、ストレスコーピングに関する研究についても、傷つきやすさとの関連はこれまでに明らかになってきていなかったため、有益な知見を得ることができたと考える。 メンタルヘルスの関連では、一部実験手法を用いて傷つきやすさの実態や関連要因について解明していく予定であったが、ヴァルネラビリティに関する基礎研究のデータが少ない実情やより詳細にストレス反応との関連を見ていく必要性を踏まえ、基礎研究の蓄積を続けることとした。そのため、これまで扱ってきたメンタルヘルスの指標を、より多角的に網羅できる指標を用いたり、分析手法を一部変更して研究を進めている。 2019年度に得られた知見を2020年度に活かしつつ、約2年間の知見を論文としてまとめており、インパクトファクター付きの国際誌や、国内の学会誌に投稿する準備をしている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで扱ってきたメンタルヘルスの指標(精神的健康度や抑うつ症状)は、個人の精神疾患の判断基準を含む内容やカットオフポイントがあり、アセスメントやカウンセリング対応において用いられることが多かった。また、健常な対象者にとっては日常生活で感じることのない内容(睡眠障害、希死念慮とうつ傾向など)もいくつか見られた。そのため、これまでの研究成果を踏まえた上で、ストレス反応をより包括的且つ多角的に、日常生活で感じうるストレス反応に着目して、関連性や影響の検討を行う必要性が出てきた。 また、2020年度は一部実験手法を用いて、「ストレス負荷課題を用いた傷つきやすいアスリートのストレス対処方略の探索」を行う予定であったが、昨今のコロナウイルス感染拡大の影響を鑑み、上記の必要性および課題点を踏まえた結果、メンタルヘルスとの関連および影響について基礎研究の蓄積を続けることとした。 今後の研究の方向性としては、性格特性の違いによってどの程度傷つきやすくなるのか、傷つきやすいアスリートが日常生活でどのようなストレス反応を呈するのか、について研究を進めていく。また、上記の研究を行いつつ同時並行で、2019年度、2020年度に得られた研究成果をまとめ、国内外の学術雑誌に投稿していく。これらの基礎研究がある程度、蓄積された段階で「傷つきやすいアスリートのストレス対処方略の探索」について実験手法を用いて検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナウイルス感染拡大の影響により、研究テーマに関する遂行に若干の遅れが生じてしまった。研究実施が遅れたことにより、必要な論文や参考書、得られた知見をまとめる際の分析ソフト、対象者に対する謝金など、研究費の使用に遅れが生じた。また、国内の学会が軒並み中止となったり、国際学会もオンライン開催となり、旅費や大会参加費が例年より少なくなってしまった。 しかし研究自体は停止しておらず、得られた研究成果もあるため、現在は論文執筆をしており、英文校正費や投稿料で費用を要すると考える。また、同時並行で本テーマに関する研究を2021年度も行っているため、引続き、研究テーマに関する必要な文献、消耗品等を購入する必要がある。
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