H29・30年に改訂された新学習指導要領では,子どもの個性や多様性に対応し,「主体的・対話的で深い学び」の実現が求められている.そこでは,個性や能力が多様である生徒たち学習者一人ひとりに合った,個人差や多様性に対応した指導が求められるが,限られた時間の中で,大人数に対し1人1人に合った指導を指導者が提供するのでは,時間もコストもかかり過ぎてしまう.特に,体育では,体力や体格といった身体的な個性にも対応する必要がある.この課題を解決するために,学習者の一人ひとりの体験を効果的に積み重ねることによってボトムアップで運動技能を身に着けさせる方法である「感覚経験型指導法(松浦ほか,2018; 2017)」を考案した.これまでの研究で学習者の主体的な取り組みと技能向上を両立させることが可能であることを確認したが,対象が大学生のみでの検討であった.そこで,本年は,指導方略の応用範囲を拡大するため,中学校を対象に感覚経験型指導法の効果の検証を行った. 結果として,対人関係の向上効果として,他者とのやり取りやコミュニケーションが活発になることが確認された.また,心理的効果として,中学生であっても感覚経験型指導法での学習は,男女ともに活動をより活発にし,より楽しく課題に取り組むことを可能にすることが確認された.運動技能向上効果について,自分自身のやり方を見つけて実施していたこと,動きの多様性が高いことが確認された.以上のことから,感覚経験型指導法は,中学校体育授業においても活用可能であることが確認された. 本研究では,感覚経験型指導法の学習効果の内的・外的プロセスを認知過程と動作の変化から検討し,中学校における体育授業現場へ応用した.教育現場に応用するために検討すべき課題はまだ残っているが,感覚経験型指導法が今後,体育授業やスポーツ指導現場において幅広く活用されることが期待される.
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