本研究の目的は、エネルギー摂取量、及び糞便中のエネルギーを測定することにより、意図しない体重減少を生じた施設入所高齢者の消化吸収率を明らかにすることである。 当初の研究計画では介護老人保健施設にて測定を実施する予定であったが、コロナ禍の影響により中止を余儀なくされた。そのため、当該研究期間では保有しているデータを用いた解析結果の論文発表と、エネルギー吸収率に関する文献のスコーピングレビューを実施した。
ボンブ熱量計を用いて測定したエネルギー吸収率に関するレビューはこれまで実施されていなかった。1973年以降に発表された論文をスクリーニングしたところ、ヒトを対象としてボンブ熱量計によりエネルギー吸収率を測定した原著論文は89件であった。そのうち、対象者が子供、あるいは短腸症候群やクローン病のように明らかに消化吸収率の低下をもたらす疾患患者に関する報告は除外した。さらにエネルギー摂取量の算出にボンブ熱量計を使用していない報告も除外し、最終的には健常成人に関する論文11件をレビューした。平均年齢60歳未満の各論文(9件)に記載されていたエネルギー吸収率の平均値は88.0~93.1%であった。一方で、60歳以上を対象にした研究では、エネルギー吸収率が70%台になる報告や、集団におけるエネルギー吸収率の標準偏差が10%と大きくなる報告もあった。以上のことから、加齢の影響でエネルギーの吸収率が低下する可能性は十分にあると考えられる。 本研究期間では測定を実施できなかったものの、現時点までの知見を整理することができ、高齢者における消化吸収率に関するテーマの重要性について、学術大会などを通じて発表した。
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