ヒトの筋骨格系における無数の筋を協調的に制御する戦略として,筋シナジーに基づく制御が提唱されている.筋シナジーに基づく制御は歩行のリハビリテーションにおいても有用であることが示唆されているものの,筋シナジーが何らかの運動を学習する過程でどのように変化していくのかという,「筋シナジーの形成機序」は解明されていない.そこで本研究では,神経生理学的・計算論的手法を用い,新規歩行パターンの学習における筋シナジーの形成機序を明らかにすることを目的とした. 歩行中の遊脚速度を変える学習課題を行ってもらうために,足部軌道をリアルタイムストリーミングして離地時と接地直前の遊脚速度をビジュアルフィードバックするシステムの構築を行った.具体的にどのようなシステムかというと,①動作分析システムによって,足部に貼付した反射マーカーの位置座標値を数値計算ソフトウェアのMATLABにリアルタイムストリーミングし,②その位置座標値を用いて離地する瞬間と接地直前の遊脚速度を算出し,被検者に遊脚速度をビジュアルフィードバックするシステムである.当初の計画では,実験,分析,研究成果の学会発表までを予定していた.しかしながら,新型コロナウイルス感染拡大により,研究の進行が大幅に遅れた.そのため,研究期間内では,ビジュアルフィードバックシステムの構築までしか達成できなかった.本研究課題を発展させた研究課題が「若手研究」として採択されたため,今後は若手研究と併せて,本課題での実験,分析,研究成果の公表を進めていく予定である.なお,本研究に不可欠な高額機材(動作分析システム等)はすでに購入済みである.あとは実験に係る消耗品や被検者への謝礼,論文投稿に係る費用等,比較的少額の経費が必要であるが,これに関しては学内研究費等で賄い,本研究の実験,分析,成果の公表を進める予定である.
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