研究課題
近年報告された経頭蓋静磁場刺激法は、強力な小型磁石を頭表に留置することで、脳皮質の活動を抑制できる。磁場は電場と異なり頭蓋骨でその強度が減弱されず、静磁場刺激はてんかん発作や火傷などをきたさない。安全かつ安価だが、磁場は磁石から遠ざかると減弱するため、脳深部領域では神経機能の調節に有効な磁場が形成されないと考えられていた。本研究は、手術不要の脳深部刺激を可能にする安全かつ安価な磁場刺激(シン磁場刺激)の開発に挑むものである。シン磁場刺激では、頭蓋外から複数の磁場を作用させ、合成された磁場で脳深部領域の刺激を試みる。本研究の目的は、シン磁場刺激を開発するため、合成される磁場のモデル作成、刺激機器の開発、そして正常健常人を対象とする研究を行うことである。初年度は、頭蓋内に形成される静磁場のシミュレーションを行い、そのシミュレーションの結果に基づきシン磁場刺激装置を作成した。さらにシン磁場刺激装置が形成する静磁場を空気中で実測した。表面磁束密度5340 G(吸着力88 kgf)のネオジム磁石(NdFeB、直径50 mm,幅30 mm)3個を正三角形の頂点に配置し、頭部を均一な球と仮定して、頭蓋内における静磁場の強さをシミュレーションした。その結果、頭部表面から深い部位まで大きな磁場が形成されることを確認できた。シミュレーションの磁石配置に基づき3個の磁石を用いてシン磁場刺激装置を作成した。空気中で静磁場を実測したところ、シン磁場刺激装置は従来の経頭蓋静磁場刺激よりも、磁石から離れた部位で大きな静磁場を形成することを確認できた。また、次年度の正常健常人への効果を検証する実験のために、外見・重量が同じ偽刺激用装置も作成した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りシン磁場刺激装置を作成することができた。シン磁場刺激装置が磁石から離れた部位で、従来の経頭蓋静磁場刺激より大きな静磁場を形成することを明らかにした。
作成したシン磁場刺激装置を用いて、正常健常人への効果を検証する。一次運動野の興奮性は運動誘発電位(一次運動野を強制的に刺激し、その支配筋を収縮させたときの筋電図の大きさ)で定量的に評価する手法が確立しているため、刺激部位に一次運動野を用いる。
解析ソフトウェアやワークステーションへの費用を抑えることができたため、次年度使用額が発生した。これらをあわせた使用計画として、研究データ保存用ハードディスクの購入や研究成果発表のための費用などに使用する。
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Clinical Neuroscience
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World Neurosurgery
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