研究課題
本研究では、骨格筋由来のインスリン様成長因子1(IGF-I)が、運動による脳の健康増進において役割を果たしている可能性を検証することを目的としている。骨格筋由来のIGF-Iが脳に影響を及ぼす分子機序としては、骨格筋から分泌されたIGF-Iがマイオカインとして血中から脳に輸送される可能性が考えられる。本年度は、骨格筋由来のIGF-Iが血中に分泌されているか、運動により血中のIGF-I濃度は変化するかの2点を主として検証した。骨格筋由来のIGF-Iが血中濃度に及ぼす影響を検証するために、骨格筋特異的なIGF-I欠損マウスを用いて、血漿IGF-I濃度を測定した。タモキシフェンの投与により骨格筋IGF-Iの欠損を誘導し、2、4、16、20週間後にマウスの血漿をサンプリングした。得られた血漿サンプル中のIGF-I濃度を酵素結合免疫測定法(ELISA)により検討した。その結果、全てのタイムコースにおいて、血漿IGF-I濃度の統計学的に有意な変化は検出されなかった。従って、骨格筋由来のIGF-Iは血中濃度に影響を与えていないことが示唆される。IGF-Iは運動誘導性のマイオカインとして、運動効果に関与している可能性が示唆されているが、自発性走運動の際の血中IGF-I動態に関しては十分な知見が得られていない。従って、野生型のC57BL/6Jマウスに対し、海馬のシナプス分子の発現変化が観察できる4週間の自発性走運動を施し、IGF-Iならびに運動誘導性のマイオカインであることが報告されているcathepsin Bの血漿濃度をELISAにより測定した。その結果、自発性走運動により血漿cathepsin B濃度は増加したが、IGF-I濃度は統計学的な変化が検出されなかった。以上より、自発性走運動は血中IGF-Iを増加させないことが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通り、遺伝子欠損の条件検討を行い、タモキシフェンの投与によりIGF-If/f; Has-mcmマウスの骨格筋においてIGF-Iの遺伝子発現が減少することを確認することができた。一方で、骨格筋IGF-Iが欠損しても、血中のIGF-I濃度に関しては統計学的な変化が検出されないとの先行研究とは異なる結果が得られている。また、長期的な自発性走運動を施しても血中のIGF-I濃度は変化しないとの知見も得ている。以上のように、骨格筋IGF-Iが脳の健康増進にもたらす影響を考察する上で重要な知見を得ていることから、本研究がおおむね順調に進展していると判断した。
次年度は、骨格筋IGF-Iが脳に与える影響を検討する。骨格筋特異的にIGF-Iを欠損させた後、行動解析(オープンフィールド試験・高架式十字迷路試験・強制水泳試験・Y迷路試験・バーンズ迷路試験)を実施することで、情動ならびに学習機能を評価する。行動解析後に脳組織をサンプリングし、生化学解析ならびに組織学解析を実施することにより、海馬における成長因子・シグナルタンパク質・シナプス分子の発現量を評価する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)
Foods
巻: 8 ページ: 439~439
10.3390/foods8100439