研究実績の概要 |
研究代表者は、低酸素トレーニングが運動パフォーマンスを改善させること、骨格筋内のエネルギー基質量を増加させることを明らかにしてきた(Kasai et al. 2015, 2017, 2019, 2021)。さらに近年、低酸素トレーニングの推奨プロトコールも示されたが、トレーニング時における至適な酸素濃度までは明らかにされていない。そこで、動脈血酸素飽和度(SpO2)を考慮した低酸素環境下における運動・トレーニングが無酸素性能力の改善に及ぼす効果を明らかにし、SpO2を用いた効率的な低酸素トレーニングプログラムを新たに提案することを目的に研究を実施してきた。 今年度は、低酸素環境下での高強度トレーニング時におけるSpO2の違いが、筋グリコーゲン量および局所循環に及ぼす影響を明らかにすることを目的に実験を実施した。陸上競技短距離選手または球技種目選手14名を対象に、高強度トレーニングを低酸素環境下(酸素濃度; 14.4%、標高3,000m相当)において実施した。トレーニングには、高強度運動(6秒間全力ペダリング × 5セット、セット間休息30秒)を用いた。これらの運動を1セッションとし、10分間の休息を挟んで3セッション実施した。トレーニング期間前後には、間欠的ペダリングテスト(6秒間全力ペダリング × 5セット、3セッション)を実施し、発揮パワーを評価した。また、間欠的ペダリングテストの前後において、筋血流量および筋酸素消費量を測定した。さらに、炭素磁気共鳴分光法を用いて安静時における筋グリコーゲン量を非侵襲的に測定した。その結果、発揮パワーはトレーニング期間前後において有意に増加した(P < 0.05)。筋血流量および筋酸素消費量はトレーニング期間前後において有意な増加が認められた(P < 0.05)。しかし、運動時におけるSpO2の変化率と各指標の変化率との間に有意な関係性はみられなかった。今後は、運動時におけるSpO2の変化の動態を詳細に検討していく。
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