観光客の心理状態を観光中の「仕草」を手がかりに推定する手法を検討しているが,この心理状態は観光客の持つ属性(文化圏,性別,性格など)によって異なった仕草として表出する可能性がこれまでの研究で明らかとなっている.そこで本研究では,心理状態推定モデルへの観光客属性の与える影響を分析するとともに,観光客属性の違いによる影響を考慮した特徴量抽出・推定モデル構築によって,観光客の心理状態推定の精度向上を図ることを目的とし,下記のフェーズに分けて実施した. ◯フェーズ1(観光客属性分析による仕草表出メカニズムの解明): 観光中の仕草センシングデータ(頭部・身体・眼球運動,脈波,皮膚電位,自撮り動画など)を用い観光客の観光中の心理状態を推定するモデルにおいて,観光客属性の一つである観光客の国籍の観点から統計分析(観光客の国籍と推定モデル構築に使用した特徴量における2要因の分散分析)を行った結果,感情推定および満足度推定それぞれにおいて,国籍の差による影響が見られた. ○フェーズ2(センシングの容易化・特徴量抽出の高度化)・フェーズ3(観光客属性差・環境ノイズにロバストなモデルの構築): これまでの研究で取り扱ってきた特徴量の重要性の分析を通して,測定が煩雑であった眼球運動を除外した推定が可能であることが明らかとなった.またその際に,頭部装着センサによって測定していたもののこれまでは取り扱っていなかった環境センサデータ(温度・湿度・気圧),すなわち環境要因に関する情報を組み込むことによって,推定精度が向上することが明らかとなった.以上で得られた知見をもとに,新たに京都で収集した24名分のデータ(日本,ベトナム,ロシア,中国,タンザニアなど,多様な国籍の被験者を含む)によってモデルを再構築し評価した結果,これまでの結果と同程度の精度による心理状態推定が可能であることが明らかとなった.
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