格子ボルツマン法に基づく数m解像度の都市風況・汚染物質拡散解析に対するアンサンブルデータ同化の適用可能性を検討するため、大アンサンブル数の計算を行い、その統計諸量を評価した。大アンサンブル数の計算には、昨年度開発したMPI版アンサンブル計算コードを利用した。
まず、各物理量の瞬時値について確率分布およびヒストグラムを評価したところ、風速は概ねガウス分布に従うことが確認された。しかし、汚染物質濃度のヒストグラムは正規分布を示さず、ゼロ付近の値が高頻度に出現する分布になることがわかった。この分布は正規分布よりも対数正規分布やガンマ分布によく従うことから、汚染物質拡散過程は、乗算的な確率過程でばらつくことが明らかになった。アンサンブルデータ同化は一般的に、物理量の統計的ばらつきを正規分布とすることを仮定するから、汚染物質濃度の観測値を直接同化することは困難であるとわかった。このため、汚染物質濃度のデータ同化には、非ガウス性を考慮したデータ同化手法の開発が必要である。
次に、風速についてアンサンブルデータ同化の適用可能性を検討するため、瞬時値および時間平均値の格子点間の共分散を評価した。結果として、都市風況解析における風速のデータ同化としては、(1) 上空50 m 程度の風速を対象として、(2) 30程度のアンサンブル数の計算を行い、(3) 風速の15分間平均値を同化することが実現可能性が高いことがわかった。ただし、アンサンブルデータ同化は一般に、瞬時値を同化するものとして定式化されているため、時間平均値を同化できるデータ同化手法の開発を新たに行う必要があり、これは今後の課題である。
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