昆虫の視覚神経系を模倣するシリコン神経ネットワークの実現に向けて、ニューロンを模倣する回路ユニットであるシリコンニューロンユニットを対象に、その設計技術の改良を特に行った。神経系を忠実に再現するにはその基本構成要素であるニューロンの発火特性を再現することが重要である。これまでの研究では、ニューロンを忠実に再現する数理モデルであるイオンコンダクタンス型モデルを再現するシリコンニューロン技術を開発してきたが、本研究期間では、実際の昆虫の神経細胞の発火特性の再現を行った。イオンコンダクタンス型モデルを再現する際には、次元縮約や分岐解析といった技術によって、その発火特性の背後にある数理構造を理解してからモデルパラメータ探索を行えたが、実際の神経細胞では行えないため、パラメータ探索手法の改良に取り組んだ。ここで、より効率的なパラメータに向けて、パラメータ数の削減やUnscented Kalman Filterの適用を検討した。また、感覚信号の記憶や学習を司るキノコ体のケニヨン細胞を再現するシリコンニューロンをField Programmable Gate Array(FPGA)上に実装した。ここで、シリコンニューロンの内部状態を更新する回路のパイプライン化を行い、100MHzで正しく動作することを確認した。また、昆虫の神経系では、コネクトームは明らかになっているが、個々のシナプスの伝達効率はほとんど明らかになっておらず、ネットワークモデルの構築における重要な課題であった。そこで、Homeostatic synaptic scalingに基づき、シナプスの重みをニューロンの発火頻度に応じて調整する手法を開発した。
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