研究課題/領域番号 |
19K24388
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
伊藤 茜 関西学院大学, 理工学部, 助教 (30844659)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 安定同位体 / 岩石風化 / 超苦鉄質岩 / ニッケルラテライト鉱床 / 六価クロム / TIMS |
研究実績の概要 |
かんらん岩や蛇紋岩などの超苦鉄質岩が高温・多湿な環境下で化学風化を受けて生成したラテライト鉱床は、東南アジアを含む熱帯・亜熱帯地域に広く分布しており、レアメタルの新たな供給源として注目されている。しかしながら、鉱床開発において人体に有害な6価クロム (Cr) の溶出による周辺土壌や河川の汚染が問題となっている。本研究では、酸化還元反応により大きな変動を示すCr安定同位体と、固相中の元素の存在形態の把握に有用である逐次抽出法を応用することで、ラテライト鉱床における6価Crの生成機構および溶出挙動を明らかにすることを目的としている。 分析対象である岩石や風化物試料のCr安定同位体比の変動は、地下水のような溶液支配的な環境と比較して非常に小さいため、高精度な分析法が必要となる。本研究では、同位体比既知の校正試料 (ダブルスパイク: DS) を未知試料に添加し、前処理および同位体比分析における誤差を補正する事で高精度分析が可能であるDS法を採用した。DSと未知試料の混合比は分析値の精度に直接影響を与えるため、Bonnand et al.(2016) を参考に複数の割合で混合した試料の同位体比を表面電離型質量分析計を用いて測定し適切な混合比を求めた。これにより、環境試料分析に十分な高精度分析を達成した。本手法を用いてインドネシアのラテライト鉱床より採取した試料に対し全岩のCr同位体分析を行ったところ、5m以深では母岩と比較してほぼ変動が見られなかったのに対し、表層では母岩よりも低い値を示した。これは、一次鉱物から溶解した3価Crが6価Crに酸化された後に、一部が再度還元された事を示唆している。また、有機物含有量および鉄の移動量が大きいサイトでは、より小さい同位体比の変動を示す傾向が見られ、有機物や溶存2価鉄の存在がラテライト鉱床における6価Crの移動に制約を与えている事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標であった高精度Cr安定同位体分析法の開発を達成し、全岩試料のCr安定同位体比を把握することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は逐次抽出によりCrの存在形態を明らかにし、さらに、分画を分けた試料ごとのCr同位体比分析を行うことで6価Crの生成機構を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感性拡大により、予定していた同位体分析および研究会等の出張を取りやめることにしたため未使用額が発生した。 これによる未使用額は、2020年度に抽出実験の消耗品費および同位体分析の経費として充当する予定である。
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