令和3年度は、8-9月に計9日間のサンプリングを実施し、クモとイナゴ・ミミズを採集した。生食連鎖を介した放射性セシウムの移行を把握するうえで指標となる植食性昆虫に着目し、森林林縁部の草地に生息するコバネイナゴ・土壌・食草(イネ科植物)の137Csを定量し、2年間の移行係数(TF: Transfer Factor)を比較した。その結果、土壌-植物間の移行係数は、2020年から2021年で大きな変動は認められなかったが、食草-イナゴ間の移行係数は、上昇が認められた。これは、福島原発事故後10年が経過し、土壌-植物間の放射性セシウムの移行は定常状態に近づく一方で、一部の土壌に含まれる高濃度の放射性セシウムが植物を介してイナゴへ移行する可能性を示している。本研究結果は、生食連鎖を介した放射性セシウムの移行を評価するためには、放射性セシウムの不均一分布を考慮した評価が必要であることを示すものである。上記の結果は、査読付きProceedingsに投稿した。 研究期間全体を通して、毎年度継続して現地調査を実施することで、原発事故後約10年後の放射性セシウムの環境移行が定常状態に向かう過渡期における重要なデータを取得した。研究期間全体を通して得られた結果から、森林生態系における食物連鎖を介した放射性セシウムの長期移行挙動において、腐食連鎖を介した移行の寄与が大きくなる可能性が高いことが示唆された。これらの研究成果は、査読付き論文1件、査読付きProceedings1件、図書1件、及び学会発表等3件として公表した。
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