研究課題/領域番号 |
19K24396
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
山口 珠葉 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, 研究員 (30845293)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 貧栄養海域 / リン / 溶存有機物 |
研究実績の概要 |
御前崎沖観測定線で実施された蒼鷹丸航海のうち、11月および1月の2回において、易分解性溶存有機態リンの動態を明らかにするための船上培養実験を行った。培養実験は2回とも黒潮外側域にあたる北緯30度の観測点において実施した。11月航海では、培養開始時の栄養塩濃度が硝酸塩・リン酸塩ともに検出限界以下と枯渇していた。また初期クロロフィル濃度も0.13 ug/Lと低く、貧栄養環境であったと考えられた。培養系列は現場滅菌海水を用いた0%および90%希釈系列、およびそれぞれに栄養塩を添加した全4系列を用意し、甲板水槽にて24時間培養を行った。このとき、栄養塩添加の有無によらず、希釈率が高い系列においてクロロフィル濃度の増加速度が有意に大きかった。よって、微小動物プランクトンの減少が植物プランクトンの増殖を促し、枯渇した無機態栄養塩の代替に有機態栄養塩がその増殖に利用されていたと考えらた。各種溶存有機態リン濃度については分析を進めている段階であるが、これらの結果から生体活動に伴う系列内の濃度変化が起きていると期待される。これを受けて、1月航海では各種栄養塩濃度の時系列変化をより詳細に追うべく、72時間での培養系列を追加した。ただし、90%希釈系列におけるクロロフィル濃度は培養時間の長さに関わらず減少に転じた。その要因としては栄養塩の不足や捕食による植物プランクトンの増殖制限が挙げられる。また、1月航海では培養開始時に栄養塩がやや残存しており、初期クロロフィル濃度も0.55 ug/Lと高かったことから、そもそも現場植物プランクトン群集の組成・生理状態等が前回とは異なっていたことも考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた研究計画とは一部異なるものとなったものの、本年度は概ね研究課題に沿って順調に進展したと判断する。特筆すべき事項としては、本課題において肝要となる高感度栄養塩分析技術について、配属初年度となる当該年度中に所属部署内に分析環境を整え、分析装置類の導入・設置を完了できた。これにより、次年度の試料分析をスムーズに進行することが可能となった。また、研究航海に数度参加し、比較的貧栄養である黒潮外側域において船上培養実験を実施した点である。現時点での実験結果からは、希釈培養法によって植物プランクトンの増殖に有意な差がみられており、したがって培養系列内における各種栄養塩の存在形態も無機態・有機態・溶存態・粒子態と様々に変化していると考えられ、それらの詳細を明らかにすることで栄養塩循環経路の解明に貢献すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は本研究課題の最終年度であり、季節間比較のための現場観測と並行して、収集した試料やデータの分析・解析を進め、学会発表や論文投稿などの形で成果をまとめる予定である。以下は主な分析予定試料とそこから期待される結果である。 蒼鷹丸航海での船上培養実験の試料からは、リン酸、リン酸モノエステル、溶存有機態リン、粒状態リンなどの各種リン化合物濃度が明らかとなることで、植物プランクトンの増殖に伴いリンがどのように化学形態を変化させるか、その動態に対する理解が深化される。 併せて、過去の研究航海や上述の培養実験における遺伝子試料の分析から、とりわけどのような植物プランクトン群集に溶存有機態リンが有用であったか、またそれに関わる発現遺伝子群などについても新規知見が得られると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の未使用額は451,490円であり、今年度はそれらを併せた額を使用予定である。未使用の研究費が生じたのは、予定していた遺伝子試料の外注分析が延期したためであり、これは研究目的に沿う適切な分析・解析サービスの選定に想定より時間がかかっていることが主な理由である。 したがって、今年度における使用計画としては、昨年度実施できなかった遺伝子試料の外注分析、船上培養実験におけるプランクトン検鏡試料の外注分析、栄養塩分析のための試薬調達、オープンアクセスジャーナルへの論文投稿、国内外での学会発表などである。
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