本研究の目的は、社会行動の特に社会性の維持を促す接近行動の神経制御機構を分析すること、そしてその分析を自閉症動物モデルにまで当て嵌め、自閉症の主症状である社会性の欠損を司る神経回路を明らかにすることを目的とした。本年度は、前年度まで行ったオキシトシン神経回路の役割についてまとめ、オキシトシン神経投射の調節が適切な社会行動の発現に必要であることを見出し、その神経回路調節を司ると考えられる触覚刺激感受性の神経核について分析した。マウスを被験体として用い、ウイルスベクターによる化学遺伝学的操作を行うことで、特定の神経回路の活動を操作し、その操作された神経回路の社会行動シークエンスへの役割を検討した。社会行動シークエンスのそれぞれの過程をどの神経回路が制御しているかを時系列にそって分析するため、論文としてまとめるにあたり、1)何が接近行動を促すか、2)接近行動の際にどの神経回路が働くか、3)接近後のシークエンスで行う行動は何があるか、4)接近を拒絶した場合の神経回路はどのように働くか、5)接近後のシークエンスの変化を制御している回路はどれか、というように、それぞれの分析過程について別個にまとめることになった。これらの分析によって、社会行動から向社会的な関係を築くまでに、どのような神経回路が時系列にそってどのように働くかの概要が明らかとなり、さらに自閉症動物モデルでの同様の検討をすることで、自閉症様行動がどのように制御されて発現しているかの詳細が明らかとなってきた。この分析を進めることで、治療法がないとされる自閉症の症状を制御する神経回路が明らかとなり、神経回路操作による治療に結びつくことを目指している。
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