研究実績の概要 |
本研究では、らせん構造を有する新奇ナノグラフェンや特定の化学構造を有するグラフェンナノソレノイドの合成検討と物性評価を行った。最終年度には、ジグザグエッジとπ拡張[5]ヘリセン構造を有するテトラベンゾジナフトピラントレン(TBDNP)の合成検討と基礎的な物性評価を完了し、800から1000 nmに至る絶対量子収率14%の近赤外発光や円二色性分散測定による0.032という比較的大きな異方性因子を明らかにした。一方で、さらなる新奇ナノグラフェンやグラフェンナノソレノイドの合成検討を進め、今後の研究に繋がる知見を得た。研究期間全体を通じて、π拡張[5]ヘリセン構造を有するジベンゾ[a,m]ジナフト[3,2,1-ef:1',2',3'-hi]コロネン(DBDNC)やヘキサベンゾペリヘキサセン(HBPH)、またさらに大きならせん構造を有するπ拡張ダブル[9]ヘリセンをはじめとした複数の新奇構造の合成を達成するとともに、特異な物性や応用可能性に関する多くの知見を得た。例えば、DBDNCは655 nmと700 nmの2波長で同時に自然放射増幅光を示し、π拡張ダブル[9]ヘリセンは絶対量子収率18%の750から1100 nmに至る幅広い近赤外発光を示した。一方で、上記の合成検討から派生して既知の多環芳香族炭化水素の新規誘導体も合成し、例えばベンゾ[rst]ペンタフェンの二量体、5,5′-ビベンゾ[rst]ペンタフェンが軸不斉による光学活性に加えて対称性の破れを伴う分子内電荷移動を示すことを明らかにした。また、2つのブロモ基を有するアントラセニルテトラフェン誘導体が超高真空下、金属基板上での表面合成により5員環や7員環を有する非平面状の新奇磁性グラフェンナノリボンを生成することが共同研究により明らかとなり、磁性を有する新規ナノカーボン材料の開拓にも繋がった。
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