研究課題/領域番号 |
19K24691
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
吉見 昭秀 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | スプライシング因子 / 遺伝子変異 / RNA結合蛋白質 / SRSF2 / SF3B1 / 白血病 / 神経膠腫 |
研究実績の概要 |
①SRSF2変異による発がん機構の解明 : 変異型SRSF2により生じるGSTM2およびCIDEB遺伝子のintron retention(IR)部位を含む領域をクローニングしたminigeneを構築し、複数のG-rich配列をC-richに置換した結果、それぞれIRが改善したことから、変異型SRSF2による連続したIRは、その間に位置するexonがG-richのときに起きることが強く示唆された。また、現在、上記のIRに対するAntisense Oligonucleotideを合成し、スプライシング異常の改善および生物学的影響を評価している。 ②SF変異がないにも関わらずsplicing異常をもつがん : IDH1/2遺伝子変異を有する神経膠腫患者検体においてグローバルなスプライシング異常が生じていることを申請者は発見したが、実際にIDH1^<R132H>変異を神経膠腫細胞株に導入したところ、同様のグローバルなスプライシング異常が誘導され、確かにIDH1変異がスプライシング異常を誘導することが確認された。また、国立がん研究センター中央病院脳脊髄腫瘍科からIDH遺伝子のgenotyping済みの臨床検体を33例入手し、病態の鍵となるスプライシング異常を絞り込むためにRNA sequencingを実施したところである。 ③RNA結合蛋白質(RBP)の治療標的化検討 : 各種がんにおけるRBPへのoncogenic addictionを評価するためのRBP CRISPR Screeningを実施するために、スプライシング変異陽性・陰性の各種細胞株K562・Nalm-6(白血病)、U-87(神経膠腫)、MEL270(メラノーマ)、A549(肺癌)、PANC-1(膵癌)細胞にCas9遺伝子を導入し、また約500種類のRBPを標的とするsgRNAlibraryの合成を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要に記載した①-③の3大テーマのそれぞれの進捗であるが、①SRSF2変異による発がん機構の解明は計画通り、②の神経膠腫については計画以上に進展しており、2年目に計画していたスプライシング異常のメカニズムについても原因となる因子を特定し、確認のための実験を実施している。②の胸腺上皮癌についてはGTF2I変異によるスプライシング異常がほとんど誘導されなかったことから、計画を中止する判断を行った。③についても目標とする細胞株にスプライシング変異およびCas9を導入する準備が整い、令和3年度に実際にスクリーニングを実施可能な状況となったため、計画以上に進展した。以上をまとめると、令和2年度は7月からの開始であり、また研究室はスペースのみ・人材はゼロの状態から研究室の立ち上げたにも関わらず当初の計画以上に進捗がみられ、順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記の「現在までの進捗状況」にも記載したが、②の胸腺上皮癌以外のテーマについては概ね計画当初の仮説を支持する結果が出ており、引き続き計画通りに研究を推進する。一方、②の胸腺上皮癌についてはGTF2I変異によりグローバルなスプライシング異常が誘導されるという仮説が否定されたため、①-③の他の有望なテーマを集中的に推進するために中止とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、研究室はスペースのみ・人材はゼロの状態から研究室の立ち上げを行ったことから、実質的に立ち上げ費用を研究開始時に正確に推測することは困難であり、むしろ申請額に対しての誤差が4%程度に収まったことは予想以上に当初の研究費使用計画が現実的であったことを示唆する。立ち上げ費用をなるべく安価に抑えて今後の研究資金として大切に確保する方針で、かつ上記のように当初の計画以上の進展があったことから、約82万円を次年度使用額とした。次年度使用額は③のRBP screeningの細胞の種類をより充実させて実施する費用として予定していた。
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