研究課題/領域番号 |
19KK0008
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
住吉 朋彦 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 教授 (80327668)
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研究分担者 |
堀川 貴司 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 教授 (20229230)
矢島 明希子 慶應義塾大学, 斯道文庫(三田), 専任講師 (20803373)
陳 捷 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40318580)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | 日本漢籍 / 蔵書学 / 今関天彭 / 書誌学 / 考証学 / 三井文庫 / 日本漢詩 / 文献学 |
研究実績の概要 |
2021年度も国外に渡航することができない情況に置かれたことから、引続き既存のデータに基づく研究活動と、国内資料を対象とする事業の進捗を図ることとした。 既存データに基づく研究については、「今関コレクションデータベース」として、三井文庫作成の『今関旧蔵本目録』の電子データを軸に、既録手写の書誌画像と、原本要所の写真画像を検索、参照できる作業用データベースを試作し、サーバに配置してメンバー間に共有した。 国内の研究対象については、研究分担者の堀川貴司を中心に、第二次世界大戦後の蒐集品を主とする慶應義塾大学附属研究所斯道文庫所蔵今関文庫の、基礎的な整理と調査を行った。洋装本の整理がほぼ終了したため、本年度は綫装本の調査に移り、除塵、除黴を施してから書架に配置し、整理研究に着手した。本年度調査の範囲では、和刻本の漢籍や日本人漢詩文集の他、清刻本及び民国期刊本も含まれていることが判明し、清末の官吏彭穀孫旧蔵の清刻『静惕堂詩集』や、民国初の官吏孫世偉贈呈の民国12年刊行『聖宋九僧詩』等が見出された。これらはバークレー校収蔵分と同質の、戦前における北京での蒐集と見られ、両文庫の補い合う関係にあることが明らかとなった。 また明治期に中国で漢籍の蒐集を行った日本の漢学者であり、天彭との比較を行うことのできる古城坦堂について、同じく斯道文庫において仮整理の状態で公開されている坦堂文庫集部に焦点を置き、調査研究を進めた。まず坦堂の事蹟について、明治30年代の上海渡航及び変法派知識人との交流や『楚辞』研究の証跡を中心に、国外共同研究者の鄭幸氏が中国での論説発表と、国際研究集会における報告を行った。また研究代表の住吉朋彦が、坦堂文庫集部旧蔵者の調査と整理を、日中韓のそれぞれについて行った。 これらの研究成果は、2022年3月17日に行われた本研究グループの「今関旧蔵書研究」集会において、報告、討論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症対策を原因として、2021年も国外への渡航が制限された上、戦前蒐集の今関旧蔵本を収めるカリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館の方針により、現地に渡航しての調査を行うことができなかった。また同様に、今関天彭が書籍蒐集を行った中華人民共和国北京市に渡航しての現地踏査も、断念せざるを得なかった上、これらの渡航に附随して行う予定であった、現地研究者との直接交流も行うことができなかった。バークレー校東アジア図書館との連絡は継続し、2022年になってから、当館での閲覧は可能となったが、様々なレヴェルの渡航制限が残存し、国外渡航は実施できなかった。 基幹となるべき原本の調査が行えない中、既存のデータに基づく研究が一つの進路となったが、国際共同研究としてこれを行うためには、ウェブの利用が必須となることから、年度当初は、会議等を行うための環境整備から事業を開始した。幸いに研究メンバーの所属機関がウェブ利用態勢の強化を推進したことから、その環境を活用し、本研究独自のコミュニケーションとデータ共有の仕組みを構築することに腐心した。 日本国内収蔵分の、慶應義塾大学附属研究所斯道文庫の今関文庫本については、本研究の範囲外で行われている今関氏旧蔵書画類の修復と研究が成果を上げつつあることに伴い、図書の部門についても基礎的な整理が進捗し、蔵書の大まかな性格が明らかとなったことは、大きな成果であった。 また国外共同研究者の鄭幸氏が2018年度に斯道文庫に留学され、年度末に帰国された僥倖を活かし、本年度はその間の共同研究の成果を、中国と日本で主催された国際研究集会において問い、フィードバックを得ることができた点は、本研究にとって有益であった。 以上を総合すると、既存データの共有と国内対象資料の調査研究においては大きな進捗が見られたが、基幹となる原本調査の困難による遅れを補うまでには至らなかったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の最終年である2022年度は、国外への渡航が可能となる場合と、不可能であった場合に分けて計画する。 本年度前半に国外渡航を伴うカリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館での原本書誌調査が可能となった場合は、年度途中で最大限の日数を、現地での書誌調査に当て、この間、現地に国外共同研究者の参集を委嘱し、バークレー校東アジア図書館及び東アジア言語文化学科との共同により、今関天彭旧蔵書をめぐる研究発表会を催して、現地研究者との意見交換を行う。また斯道文庫所蔵今関文庫の整理調査を継続し、相互の関係を詳しく明かにする。これらの成果に沿って、試作した今関旧蔵本研究データベースを、簡易書誌入力等による情報の附加を行って、公開用のデータベースに仕上げ、この中で同時に蔵書の解題研究を参照できる形として成果を公開する。 本年度前半までに国外への渡航が不可能であった場合は、代替案という形にはなるが、日本国内の研究対象、即ち斯道文庫所蔵今関文庫の調査研究をまとめ、附随する書簡類にも関心を広げる他、名古屋市鶴舞図書館等に補足調査を行った上で、同じく斯道文庫に蔵する坦堂文庫との比較研究をさらに進める。これと並行して、継続的なウェブ会議を開催、国外共同研究者の意見を重ねて徴し、日本近代漢学者蔵書の比較研究を錬成し、論文による成果公開を図る。 上記のように、場合に応じ、研究期間内での結束を追求するが、本年度中盤に国外渡航が可能となる等、中間的な情況が生じた場合には、研究期間延長の方法を視野に入れ、両案を折衷する形で活動を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の基幹事業である、アメリカ合衆国カリフォルニア州に渡航して行う、カリフォルニア大学バークレー校での関係図書原本書誌調査及び、同校を基盤とする研究者との学術交流と、本年度に予定していた、中華人民共和国北京市に渡航して行う、今関天彭書籍蒐集関係先現地踏査及び、北京大学を基盤とする研究者との学術交流が、感染症対策に因る閲覧制限や渡航制限のために、行えなかったため。
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備考 |
上記は研究組織内限定で公開中(ID/PW:sido/sido0612)
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