研究課題/領域番号 |
19KK0009
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
佐藤 悟 実践女子大学, 文学部, 教授 (50178729)
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研究分担者 |
高木 元 大妻女子大学, 文学部, 教授 (00226747)
神林 尚子 鶴見大学, 文学部, 准教授 (20759485)
松原 哲子 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (70796391)
山本 和明 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (90249433)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 笑初金島台 / 万福長者栄花物語 / 呉竹園呉竹 / 山東京伝 / 黄表紙 / 合巻 / 絵本 / 米粉 |
研究実績の概要 |
合巻研究会を組織し、ソウル大学所蔵の合巻の注釈をzoom上で行った。 呉竹園呉竹『笑初金島台』(高木元担当)はソウル大学校のみ所蔵とされてきたが、佐賀大学にも所蔵されていることが判明した。滑稽本に近い内容で、呉竹園呉竹と式亭三馬の関係が今後の課題となった。 山東京伝『万福長者栄花物語』(佐藤悟担当)のソウル大学校本は文化五年刊、日本における黄表紙体裁本は文化六年の刊行で、『山東京伝全集』の解題を訂正する必要が判明した。さらに翻刻等も問題があることが明らかになった。ソウル大学本は題簽が失われているものの、文化五年に刊行された合巻体裁本で、見返しを有し、全集は景物本とするが、西村屋与八から刊行された市販本であることが明らかになった。専修大学所蔵本が序文の刊記から、やはり合巻体裁として刊行されたことが判明した。これは文化五年における合巻の試行錯誤を示すものとして理解できる現象であり、本年度のおける最大の成果といえる。 高精細デジタルマイクロスコープの分析のため、ソウル大学校所蔵本を念頭に合巻資料の収集に努めた。また比較のため、様々な紙資料の収集も行なった。これらの資料の分析は途中であるが、今後も継続する予定である。江戸期の紙は絵本や細かな印刷を必要とする吉原細見のような本に用いられたものには米粉の混入が認められ、文字情報に頼ったものには米粉の混入がないものが比較的見られた。また初摺本には米粉の混入された用紙が用いられ、後摺本には米粉の混入が見られないといった現象も認められた。また高価な本には米粉の混入が認められ、廉価な本は再生紙が用いられるといった現象も観察された。 さらに現代の紙資料の収集も行ない、現代の紙と江戸期の紙の最大の違いが米粉の有無であることが判明した。技術的な断絶があることが窺えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの流行により、日本国内の移動は困難であり、韓国における爆発的な流行により、韓国に渡航することも困難を極める状況にある。そのため崔京国教授(明知大学校)、金美眞准教授(蔚山大学校)、洪晟準准教授(檀国大学校)とzoomによる研究会を月に一度実施しており、韓国内における拠点形成という意味では初期の目的を達している。さらに韓国の研究者に加え、イギリスのLaura Moretti准教授(ケンブリッジ大学)、およびその指導学生のFrederick Feilden氏、Joseph Bills氏、フランス極東学院院長Christophe Marquet教授、さらに東京大学への留学生李俊甫氏が参加した。 2022年度も引き続き、研究会をzoomで開催する。 さらに国文学研究資料館の「ソウル大学校所蔵近世戯作に関するメタデータ付与についての基礎的研究」との共同研究を実施することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの流行が終熄するまでは、現在の研究会を維持し、ソウル大学校所蔵本を中心に分析を行なう。日本側の研究者が分析の担当者となってきたが、今後は韓国など海外の研究者が分析を行ない、日本側の研究者がその分析を評価することにより、議論を深めるといった形で研究を進めていく。これらの研究管理を佐藤悟が行なう。新型コロナウィルスが終熄した場合は 直ちに韓国へ移動し、韓国側研究者とソウル大学校所蔵本の実地調査を行なう。 高精細デジタルマイクロスコープ、三次元蛍光分光計その他の分析装置を用い近接する近接する読本、滑稽本、人情本等の用紙の分析を進める。これらには佐藤悟、神林尚子が中心的な役割を果たす。これらを保管する書誌的な研究を髙木元が推進する。 昨年度に続き、国文学研究資料館「ソウル大学校所蔵近世戯作に関するメタデータ付与についての基礎的研究」との共同研究をさらに進めていく。来年度までの予定である。これについては国文学研究資料館の山本和明教授が、ソウル大学所蔵合巻のデータベース作成とともに当たるものとする。 さらに合巻のみならず、松原哲子は赤本、黒本青本、黄表紙にも調査対象を広め、草双紙史の中での合巻の位置づけを明確にする。特に草双紙用紙の漉き返しの紙から上質紙への転換点を明らかにするものとする。これについては東京農業大学元教授の澤山茂の参加を求める予定である。 ソウル大学校所蔵合巻の特徴が天保改革期の合巻を多く所蔵することである。蔚山大学校の金美眞准教授との共同研究を推進する。特に森屋治兵衛の刊行物に着目し、その同校を追跡する物とする。また合巻同様に天保改革における色摺の禁令の影響を受けた鸚鵡石についても、東京芸術大学の山本あすか研究員との共同研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス禍等のため、韓国への渡航、韓国研究者の日本招聘ができなかったため,旅費が大幅に余ってしまった。そのため本年度は比較資料を購入し、デジタルマイクロスコープによる観察を行った。 韓国への渡航の条件が整った場合は、直ちに韓国側の研究者と往来し、zoomによる研究会の蓄積を現地調査によって確認する予定である。それができるまでは比較資料を作成するなどの業務を推進する。
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