研究課題/領域番号 |
19KK0013
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
谷口 満 東北学院大学, アジア流域文化研究所, 客員研究員 (10113672)
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研究分担者 |
佐川 正敏 東北学院大学, 文学部, 教授 (40170625)
下倉 渉 東北学院大学, 文学部, 教授 (40302062)
海老根 量介 学習院大学, 文学部, 准教授 (30736020)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 周制都城プラン / 先秦都城の内城構造 / 秦櫟陽城 / 秦咸陽城 / 前漢長安城 / 北魏洛陽城 / 都城の平面幾何学的中心点 / 都城全面積の基本単位 |
研究実績の概要 |
前年度までの活動を引きつぎ、本研究課題が対象としている二里頭(夏王朝)時代から唐長安城にいたる中国歴代の都城遺跡について、それらの考古最新知見を入手・整理し、その考古最新知見を既存文献伝承と彼此照合・分析して、いくつかの都城についてその平面配置構造を復原するとともに、秦漢時代都城及び秦漢時代地方城市の考古新資料を対象とする日中双方の研究者によるオンライン国際シンポジウムを開催した(報告論文9篇とコメント文6篇は、『東北学院大学・アジア流域文化研究』14において全文を公表している)。本年度の研究活動によって得られた主な新知見は次の通りである。 1.先秦時代都城の内城構造を通観すると、現君主居住地・祖先神の祭祀場・祖先の墓地を囲むのがその原初形態であり、それがしだいに変容して、まず祖先の墓地が内城から外に移り、ついで祖先神の祭祀場が内城から外に移り、かわりに群臣の参集する政治的広場が内城の内側に設置されるようになっていったと考えられる。2.秦櫟陽城・秦咸陽城・前漢長安城は、氏族成員・将士集団の居住地を、いわばアトランダムに城内に取り込んだため、周制都城プランの平面構造をほとんど実現することができなかった。3.周制都城プランをはじめて本格的に実現したのは北魏洛陽城であるが、それは異民族(鮮卑族)でありながら漢族にかわって漢文化の理想を実現しようとした、鮮卑族政権の民族的・文化的意識によるところが大きい。4.歴代都城の平面構造にしばしばみられる、内城を北端に配置してその背後を空白地にする状況は、南面して支配する君主の背後(北側)に居住者は存在してはならないという、支配者論理による。5.都城の建設にあたっては、平面幾何学的な中心点と、全面積をブロック状に構成する基本単位ブロックとしての小四辺形が、設計基準定数として設定された場合が多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の方法上の主旨は、日中双方の研究者による中国都城遺跡における現地共同調査であるが、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、ここ3年半中国渡航がまったく不可能となって現地調査を一度も実施することができず、したがって本来公表する予定であった現地調査報告もすべて未公表のままとなっている。予定していた発掘現場の写真を含む現地資料がほとんど未入手なのであるから、資料収集というもっとも重要な作業において大きな空白が生じてしまったと認めざるをえない。このような情況からすれば、「おおむね順調に進展している」とはとうてい判定することができない。 しかしながら一方で、最新の発掘・調査資料を収集して精査するとともに、現地考古担当者と電信で逐次連係して都城平面配置構造の復原につとめて上記実績欄に示した新知見を獲得し、またその成果の一部を公開するためにオンライン国際シンポジウム「中国都城考古学の最前線3:秦漢都城と周縁域都市・城寨の考古学的新進展」を東北学院大学アジア流域文化研究所と中国社会科学院考古研究所の共催で開催するなど、できうる限りの研究遂行を試みた。このシンポジウムには、報告者として中国側8名・日本側1名、コメンテーターとして中国側1名・日本側5名の研究者が参加して考古最新知見をめぐる報告と討議が行われたが、秦櫟陽城・後漢洛陽城といった都城および都城平面構造の復原に貴重な類例を提供することになると予想される秦漢時代地方城市について、城壁・墓葬・居住区・宮殿区などの発掘・調査の最新成果が、現場担当者から写真・図版つきで直接提示された意義は、本研究課題の推進にとってきわめて大きいといわねばならない。このような情況からすれば、最下位の「遅れている」と判定することもやはりできない。 以上を総合して、「やや遅れている」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染症の蔓延によって研究活動に遅れが生じているけれども、日中双方の研究者による都城遺跡現地共同調査を主な研究手段に、二里頭(夏王朝)時代から唐長安城にいたる中国の歴代都城について、その宮廟官寺・門朝城郭の平面配置構造を正確に復原しようとする本研究の課題に何ら変更はなく、認可された延長期間(次年度1年間)を最大限に活用して、所期の目的を実現すべく研究を推進する。 1.前漢長安城・後漢三国曹魏北魏洛陽城・唐長安城の主要3遺跡については代表者・分担者4名全員が参加する現地共同調査を実施し、その他については、代表者谷口満が河南省・山東省の先秦時代都城、分担者佐川正敏が秦咸陽城・内モンゴルの関連都城、分担者下倉渉が六朝建康城、分担者海老根量介が河南省・安徽省・江蘇省の先秦時代都城をそれぞれ分担して、現地共同調査を実施する。次年度中に4名各自2回の現地調査を予定しており、国際共同研究の性格上、その渡航旅費が総経費の約6割をしめることになる。2.以上の作業で得られた最新の知見を駆使して、各都城の門朝・城郭及び諸施設の平面配置情況を正確に復原する。主要3遺跡については4名全員で従事し、他に、谷口満は先秦時代都城の宗教施設・墓地の配置、佐川正敏は北方草原地区都城の寺院・墓地の配置、下倉渉は六朝時代都城の宮殿・寺院の配置、海老根量介は先秦時代都城の市場・手工業区の配置をそれぞれ担当する。3.成果を集約して、谷口満が宮廟官寺・門朝城郭配置構造の変遷史を内容とする研究論文「中国都城の平面配置構造を復原するにあたってのいくつかの問題」を執筆・公表する。 なお3回のシンポジウム開催をうけて次年度も国際シンポジウムを共同開催することを、中国社会科学院考古研究所との間ですでに取り決めており、次年度は唐長安城及び宋代都城を対象として西安市で開催するてはずとなっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、前年度もまた中国都城遺跡での現地共同調査および中国側研究者の招致がすべて中止となり、その渡航旅費を基金の使用基準に従って次年度(延長1年間)にもちこさざるをえなくなったのが最大の理由である。購入を計画していた物品(図書)についても、感染症にともなう輸送手段の停滞によって前年度内の入荷が不可能となり、その費用も次年度にもちこさざるをえなくなった。2023年4月の時点で、渡航再開・輸送手段の復旧がほどなく可能になると見込まれており、次年度持ち越し分の経費をもって現地共同調査・招致・物品購入を実施したい。なお次年度は4名の研究メンバーがそれぞれ2回(全員で1回・各自で1回)の現地共同調査を実施する予定であるが、コロナウイルス感染症にかかわる日中両国双方の渡航管理状況によっては、次年度内に各自が2回渡航することが困難になる場合も生じると思われる。その場合には、可能であれば研究期間の再延長を申請して、うち1回の渡航を次次年度(2024年度)に繰り下げたいと考えている。この件については、2023年10月ごろに情況を判断し、しかるべき手続きを取りたい。また、コロナウイルス感染症防止にかかる室内集中作業の制限がようやく緩和されたのをうけて、大学院生へのデータ処理・復原図精写などの委嘱も再開する予定であり、次年度使用額の1割ほどがその謝金にあてられる。
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備考 |
アジア流域文化研究所が国際シンポジウムを開催しました。 http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/info/top/230221-2.html
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