研究課題/領域番号 |
19KK0016
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
内田 悦生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40185020)
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研究分担者 |
高谷 雄太郎 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (10636872)
齋藤 有 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60469616)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | アンコール遺跡 / クメール遺跡 / 石材 / 劣化 / 石切り場 / サンボール・プレイ・クック遺跡 / 硬砂岩 |
研究実績の概要 |
2019年度は、プレ・アンコール期に建造され、主としてレンガ材が建築材として使用されているサンボール・プレイ・クック遺跡の都城区に分布する寺院を対象にレンガ材の携帯型蛍光X線分析装置による化学組成分析および厚さの測定を行い、すでに測定の済んでいる寺院区で確立された建造ステージA~Eとの対比を行った。その結果、都城区の寺院の多くはステージDに区分されるものが多く、寺院区と比べて相対的に遅い時期に建造されたものが多いことが明らかになった。 2019年度のもう一つの主要な調査として、タ・ケオの祠堂や彫像に使用されている硬砂岩材の石切り場調査を行った。調査はアンコール遺跡の東およそ250km離れたところに位置しているクラチエ州のSandan村およびTrapeang Tuol Kruos村において行った。その結果、Sandan村では新たに32個の成形した砂岩材を発見するとともに、2か所の鉄スラグのマウンドを発見することができた。また、Trapeang Tuol Kruos村では、20個の成形した砂岩材を発見した。砂岩材のRb含有量と帯磁率から前者はタ・ケオ寺院の祠堂に使用されている砂岩材の供給源であり、後者は彫像に使用されている砂岩材の供給源であることが推定された。また、鉄スラグとともに廃棄されていた鉄鉱石は主として磁鉄鉱からなるが、今までに調査を行ったPhnom Daek周辺地域やKompong SvayのPreah Khanで見つかった鉄鉱石とは異なり、堆積性の鉄鉱石であり、その起源が前2者のものとは異なることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は研究期間が半年であったため1回の現地調査しかできなかったが、サンボール・プレイ・クック遺跡の都城区における全寺院のレンガ材の調査を終えることができ、順調に調査を終えることができた。 また、硬砂岩の調査では、以前に調査を行ったSandan村の石切り場がさらに広範囲に広がっていることを明らかにすることができたとともに、鉄スラグのマウンドを新たに発見することができ、鉄の供給源に関する新たな情報を得ることができた。また、Trapeang Tuol Kruosでは初めて比較的規模の大きな石切り場が存在することを明らかにすることができた。 このように、半期の研究期間ではあったが、大きな成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度では、サンボール・プレイ・クック遺跡の寺院区においてレンガ材の劣化調査を行う予定である。代表的な寺院群であるN群、C 群およびS群において調査を実施する。調査では、劣化材に対して携帯型蛍光X線分析装置を用いて元素分析を行い、析出元素をその場で明らかにする。また、サンプリングが可能な場所においては試料を持ち帰り、SrおよびSの同位体分析等を行い、石材劣化を引き起こした塩類等の起源を明らかにする。 また、クメール遺跡に使用されている砂岩材の内、量的な意味において重要である灰色砂岩および石英質砂岩(赤色砂岩)の連続的な露頭が存在するPreah Vihear遺跡へと続く道路沿いにおいて砂岩の調査を行い、砂岩の構成鉱物や化学組成等の垂直的な変化を明らかにする。 さらに、コー・ケル遺跡に関しては観光地域となっている東側地区において既に調査を行っているが、反対側のアクセスが困難な西側地区の寺院においてラテライト材およびレンガ材の調査を行い、東側地区での結果を考慮しながら各寺院の建造順序を明らかにすることを予定している。 これに加え、時間的な余裕がある場合には、アンコール遺跡からタイのピマーイ遺跡に続き北西王道沿いの宿駅に使用されているラテライト材および砂岩材の調査を行い、石材の供給範囲の推定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度では20万円ほどの残金が生じたが、この残金は主として2020年2月~3月にかけて行われた海外調査の日程を他の研究との都合により縮めた共同研究者がいたことおよび2019年度末の海外調査で採取した岩石試料の分析をまだ行っていないことに起因する。2019年度の残金は2019年度末の海外調査で採取した岩石試料の依頼分析費用として2020年度に使用する予定である。
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