研究課題/領域番号 |
19KK0019
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館 |
研究代表者 |
河野 一隆 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部, 部長 (10416555)
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研究分担者 |
藤田 晴啓 新潟国際情報大学, 経営情報学部, 教授 (40366513)
山本 亮 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 研究員 (30770193)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 考古学 / 装飾古墳 / デジタルアーカイブ / インドネシア先史文化 / GPS |
研究実績の概要 |
インドネシア・南スマトラのパセマ高原には、初期金属器(青銅器)時代の石人・石獣など巨石を加工した造形品、埋葬施設である石室に彩色壁画を表した装飾古墳や、幾何学文を描いた洞窟壁画などの先史時代芸術を有する遺跡が点在する。当地が属する東南アジアは、ユーラシアとオセアニアの文化が交錯する結節点であり、先史時代の人類の芸術の展開を考察する上で非常に重要な場所として古くから注目されてきた。しかし、日本ではパセマ高原の先史時代芸術については実態がほとんど知られていない。一方、インドネシアにおいてもシュリーヴィジャヤ王国以前の研究はあまり進んでいない。このため、装飾古墳も発見直後に簡便な覆屋がかけられただけの保存施設が多く、遺跡の多くが風化・褪色の危機に瀕している。本研究は、日本における装飾古墳の研究で培われたデジタルアーカイブや画像解析の技術を援用して、遺跡を高精度・高精細で記録し、この人類遺産の広い周知に努めると同時に、国立インドネシア考古学研究センター等、インドネシア内外の研究機関とも連携した考古学研究や、壁画を含む先史時代芸術の教育普及、文化財保護(褪色防止)などを視野に入れた活用等の多面的な取り組みを行う。 現在までに不動産文化財の計測・記録・解析の技術基盤を確立するために、3D計測のためのハンディスキャナ、立体データ処理に適うスペックを具えたワークステーションを導入し、当地の装飾古墳の写真計測(フォトグラメトリ)を実施した。あわせて、文化財計測に実績のある内外の研究者と共に実践的な研究を進め、インドネシアとのオンラインシンポジウムも開催した。今後は、すでに計測した洞窟壁画における活用事例などとの比較調査を通じて、人類遺産としての普遍的かつ固有の価値を内外に発信し、当初の目的である先史壁画における新たな研究基盤を構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度に引き続き、2021年度もコロナ・ウイルスのパンデミックは収束せず、国内でも緊急事態宣言の発出、国内外の移動規制、海外渡航の自粛要請ならびに帰国時の自主隔離の徹底など、本研究の遂行にあたっての厳しい制約には変わりがない状況である。このため、今年度当初の計画では、イタリア・パエストゥムに築造されたルカニアの装飾古墳についての現地調査を行い、ギリシャ系フレスコ画とローマ時代絵画についての検討を進める予定であったが、事態は好転せず、渡航を断念せざるを得なかった。ただし、日本国内の美術館に陶板模造品が所蔵されており、その調査で代用した。また、先史壁画と立体造形の表現の差異を解明するため、埴輪や縄文土器の調査を行った。また、それら先史造形データの解析を効率的に進めるための機械学習を目的とした研究会を、リモートおよび対面で開催し、分担者が所属する新潟国際情報大学のレポジトリから成果論文を発信するなど、感染拡大防止に配慮しつつ、海外渡航しなければ出来ない調査以外の研究を推進することで、さまざまな制約が解禁された後に、効率的に遂行できるための基盤整備につとめた。 また、国際交流の面では大きな進展があった。今回の国際共同研究のカウンターパートであるインドネシア国立考古学研究センター(ARKENAS)との共催事業として、2月8日午前に、日本側発表者3名、インドネシア側1名を立てて、九州-新潟-ジャカルタを繋いだオンラインによる国際シンポジウムを実施することができた。そこでは、今までのパセマ高原の装飾古墳についての調査研究の総括、計測の方法と原理、遺跡の考古学上での位置づけなどについてさまざまに意見交換を行い、インドネシア・南スマトラ全体の先史芸術について理解を深めることができた。この国際シンポジウムの内容は、計測・記録の成果と合せて、最終年度に報告書で纏めた中に収録する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までで3ヶ年を経過した本課題のうち、実質2ヶ年はパンデミックに伴い発出された緊急事態宣言の影響を被り、海外渡航を行うことが出来なかった。このため、本研究の推進も、取得した調査データの整理や国際シンポジウムの開催にとどまり、遅れ気味であることは否めない。今年度はパンデミックが一定程度収束し、海外渡航を規制する諸条件が大幅に緩和されることを期待して、本研究の着手当初から主目的として計画していたラスコー洞窟をはじめとする先史壁画の保存と活用を積極的に進めているフランスドルドーニュ地方の現地調査を遂行したい。とくに、展示と研究施設を兼ね備えたラスコーⅣは、壁画のある洞窟全体をデジタル計測し、屋内に再現するという世界で最も先進的な取り組みを行っている。これは、先史壁画の保存と活用の両立に苦慮し、試行錯誤の取組を続けている日本・インドネシア両国にとって非常に有益となる事例である。また、旧石器時代の先史壁画だけでなく、フランス国内の新石器時代に築かれた石室墓にも、彫刻や彩色による壁画が表されている。これらも併せて調査することで、洞窟壁画と墳墓壁画とのモチーフ上の系譜的な連続性や断絶した要素などについての研究視角が広がることが期待できる。 また、本研究で蓄積してきた3D計測・画像解析等の成果を広く共有するために、2022年度から報告書の作成に着手する。この報告書では、研究遂行の経緯や成果、2022年度に計画中のフランスの洞窟遺跡の活用事例などを掲載する予定である。その中でも2022年2月8日にリモートで開催した国際シンポジウムを英文・和文で掲載し、インドネシアと共有できるようにする。本書によって成果を共有することで、共同研究によって構築されたインドネシア国立考古学研究センターとのネットワークを一層強固なものとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も前年度から継続する、新型コロナウイルス感染拡大防止のための、海外移動自粛ならびに国内移動の制限など、計画当初は対面を前提として進めることを想定していた本研究の様々な項目が、自粛およびオンライン化を余儀なくされた。とくに、イタリア・パエストゥムに築造されたルカニアの装飾古墳について現地調査を行い、ギリシャ系フレスコ画とローマ時代絵画についての検討を進める予定であったが、予定時期に感染が爆発し、海外渡航そのものが出来ない状況となってしまった。このため、海外渡航旅費の執行が全く出来なくなり、計画との大幅な相違が生じた。パンデミックが収束した後で十分な研究推進予算が確保できるようにするため、今年度の予算執行は極力抑えたことが次年度使用額が生じた原因である。これは、2022年度に予定しているフランスでの先史壁画調査に充当する計画である。
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