研究実績の概要 |
当該年度の研究代表者および研究分担者の研究実績を要約すると以下の通りである。山内は前年度から引き続いて Thomas Creutzig, Ching Hung Lam と共同で頂点作用素代数の拡大に関する研究を行い,ミラー拡大を中心に,単純カレント拡大では得られない頂点代数の拡大例について考察を行った。島倉は Jethro van Ekeren, Ching Hung Lam, Sven Moller と共同で,共形重さ1空間のリー代数の次元に関する公式と Kac's very strange formula を用いて,ムーンシャイン頂点作用素代数以外の70個の中心電荷24の正則頂点作用素代数の一意性を統一的な方法で証明した。さらに Schellekens のリストの証明の簡略化にも取り組み,部分的に成功している。宮本は Ching Hung Lam と共同で頂点作用素代数の軌道体理論をコミュタント構成の立場から研究し,正則頂点作用素代数間の関係を導いた。荒川は Jethro van Ekeren, Anne Moreau とともにアフィン代数の許容表現の随伴多様体として現れる冪零軌道を詳細に調べ,その応用として,W代数の崩壊レベルの新しい豊富な例を見出した。川節は今年度は,物理学者の提唱した,4d/2d双対性に関連するログ共形場理論の表現論の予想を数学的に厳密に証明することを目指し,David Ridout らと共同して表現圏の構造を調べた。特に,射影加群の存在を示し,その構造について詳しく調べた。また,4d/2d双対性と関連するW代数について,その有理性や表現論を詳しく研究した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスによる感染禍の影響により,今後もしばらくは海外共同研究者との直接のやりとりは難しい状況が続くことが予想されるが,前年度と同様に,引き続き次の4つのプロジェクトを中心として,研究を進める。A.正則頂点代数の属の研究:すべての有理的頂点代数はある正則頂点代数に埋め込められる予想が提唱されており,正則頂点代数の構成と分類は有理的頂点代数の分類において本質的である。島倉はLamと共同で正則頂点代数の属について継続して研究を進める。宮本は同じくLamと共同してローレンツ形式を用いた正則頂点代数の軌道体構成法について研究を行う。B.四次元多様体と頂点代数の拡大理論,C.ログ共形場理論と保型形式,D.4d/2d双対性:この3つのプロジェクトでは有理的でない新しい頂点代数のクラスを扱う共通点がある。これらの話題に関連するプログラムがブラジルIMPAにて van Ekeren, Heluani らによって2022年3月に開催される予定であり,本研究課題に関わる海外共同研究者の多くが参加を予定している。山内はB, Cにおける拡大理論について,川節はC, Dに関わる表現圏とそこに現れる保型形式について,荒川はB,Dにおける幾何学的不変量とW代数の応用について,IMPAにおいて海外共同研究者をはじめとするプログラム参加者と研究討論を行い,最新の研究情報を収集する。研究代表者および研究分担者だけでなく,研究協力者である中塚,杉本,森脇,元良をブラジルに長期派遣する。また,長期滞在を通じて得られた研究知見について,国内外で連絡を密にとり,共有することで,グループとしての研究の方向性を決定・提案していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により,研究代表者・研究分担者および研究協力者の研究集会への参加ならびに研究打ち合わせのための海外出張がすべてキャンセルとなったため,ほとんど研究費を使用することができなかった。本研究費は共同研究のための海外旅費を種目的としたものであるが,次年度についてもウイルスによる感染禍が続くことが予想されるため,現段階で使用計画の見通しは立てられない。
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