研究課題/領域番号 |
19KK0078
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大森 千広 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 教授 (50213872)
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研究分担者 |
長谷川 豪志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 研究機関講師 (20553605)
森田 裕一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (60712700)
田村 文彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (90370428)
杉山 泰之 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (90789611)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 陽子加速器 / CERN / LHCの高輝度化 / LHC入射器アップグレード / 広帯域空洞 / 金属磁性体「ファインメット®」 / 放射線計測 |
研究実績の概要 |
本研究は我々とCERNのRFグループが2002年から継続してきた広帯域空洞に関する共同研究を基としている。相互の研究者と学生が広帯域空洞を用いたビーム調整やスタディに参加することで日欧の加速器性能の向上に寄与することが目的である。2020年度はコロナウイルスによる制限により日欧間で人的な交流が制限されたため、ビデオ会議により必要な交流を継続した。このような状況下であったがCERNでは我々が協力してきた広帯域空洞を用いてブースターでのビーム加速に成功し、ビームエネルギーは1.4GeVから2GeVとなった。加速に使用できる高周波電圧も2倍以上となりビーム調整の幅が広がったことで順調に成果が得られつつある。2GeVに加速されたビームはPSでさらに加速され、SPSに入射される段階まで来ている。この広帯域空洞技術は反陽子の減速にも導入され、最近注目されているALPHA実験などでの必要な反水素生成量は今後100倍程度に増加する予定である。 今年度旅費として予定していた研究費の一部は来年度に繰り越す一方で、CERN側と協議し次の飛躍に向けた磁性体コアの開発に着手した。これはブースター加速器で使用しているものを超える性能を持っている。磁性材料内部の発熱がさらに少なくなる。 我々の所属するJ-PARC加速器ではコリメータ部の線量や中性子量をCERNで開発した放射線モニターを使って測定している。このエリアは混合照射場としても活用されており、KEKB加速器の磁気遮蔽材料の試験も行っている。この放射線モニターはリアルタイム測定ができるため、T2K実験のターゲット施設地上部にも導入された。我々はCERNとの共同研究の実績をもとにこうした実験にも協力している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な目的である日欧の加速器間の人的な交流の点では、当初の予定と異なり行き来をすることができなかった。特に2名の若手研究者を派遣する予定であったCERN加速器スクールが延期になるなど深刻な影響が出ている。一方でメールやTV会議により必要な交流を継続し共同研究を進めることができた。日本が貢献したブースター加速器とPS加速器は順調に調整が進み、すでにSPS加速器にビームが入射されるなど進展している。またCERNで開発されたBlondと呼ばれる加速器内のビームシミュレーションコードのJ-PARC内での普及が進んだ。共通の計算コードが使えることで、実験結果の分析が効率的にできる。 予算執行の点ではCERN側と協議し、当初旅費に使用する予定であった予算を加速空洞用の磁性体コア開発に使用した。この材料はJ-PARC MRやCERNブースター加速器に使用しているナノ結晶材料のリボン厚みを薄くすることで高周波損失を改善したものである。この材料を使って加速器の性能向上に必要なR&Dを進めている。 共同研究の中で使用してきた放射線計測器はリアルタイムで線量と中性子量が測定できるためJ-PARCの他施設で興味を持たれている。今回T2K実験のターゲットステーション地上部での線量測定のため、CERN側に協力を依頼し導入することができた。この計測器はほかのJ-PARC施設にも導入予定で、すでにCERNから到着している。本共同研究からのスピンアウトとして、他施設での研究にも貢献し始めている。 以上のように、人的な交流では制限を受けたが共同研究の成果が着々と出ており、さらにT2Kの標的施設やSuper KEKBの磁気シールド材料など予想外の共同研究の波及効果もあったため、全体としては順調に進展していると判断した。今後、コロナ禍が収束した後、人的な交流を急速に進めることができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
人的な交流については令和3年度前半は厳しい状況が続くと思われる。後半に改善することを期待し、昨年度計画していたCERN加速器スクールへの2名の派遣について、今年度に開催されると期待し準備する。また、相互のビーム調整・スタディ参加に向けCERN側と調整し準備する。CERNでは今後LHCでの衝突実験も再開するが、それと並行しビーム品質向上のためのビームスタディが継続される予定である。ビーム性能の向上には長期間かかるため渡航制限の解除後にスタディやビーム調整に参加できれば十分な成果が期待できる。 今年度前半は昨年度購入した磁性体コアを用いた測定などを進める。磁性体コアを実験用にCERNから送られてきた空洞に組み込み特性の評価を行う。こうした空洞の開発は将来のビーム品質向上につながるため、前述のビーム物理研究に新たな研究手法を与えることとなる。 J-PARC MR加速器ではCERN製の放射線モニターを設置し、放射線照射エリアの充実を行ってきた。このエリアを活用しSuper KEKBの磁気遮蔽材料の照射試験を実施した。また核融合実験炉ITERからプラズマ加熱用中性粒子入射装置保護用の磁性材料の耐放射線特性の測定を行いたいとの希望もある。これとは別に、放射線モニターシステム自体がT2K実験のターゲット施設にも導入され、他施設でも導入を予定している。今後、このモニターの活用は広範に広まると考えており、共同研究の一環としてサポートしていく。 CERNで開発した粒子トラッキング計算コードはその汎用性からJ-PARCでの普及が進んでいる。引き続き普及に協力するほか、コードを利用している分担者の中で計算機の能力不足がでてきたためPCの購入や増強を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究のための出張のほかにCERN主催の加速器スクールへの2名の派遣を予定していたが、コロナの影響でスクール自体が延期となった。このスクールはコロナ収束後に再度開催されるため、その出費(旅費および参加費)を準備するため次年度使用額して準備している。
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備考 |
2019年9月に行われたCERNの一般公開(Open Days)の紹介動画(2)の中でPSブースター加速器の加速システム大改造が紹介されているが、そこでは日本の貢献が強調されている(約7、8分後)。
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