研究課題/領域番号 |
19KK0078
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大森 千広 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 教授 (50213872)
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研究分担者 |
長谷川 豪志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 研究機関講師 (20553605)
森田 裕一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (60712700)
田村 文彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (90370428)
杉山 泰之 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (90789611)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | 陽子加速器 / CERN / 耐放射線 / LHC高輝度化 / 中性子線 / 金属磁性体 / 広帯域空洞 / ラザフォードアップルトン研 |
研究実績の概要 |
2023年度は5月にイタリア・ベネチアで開催された国際加速器会議IPAC23に大森とJAEA所属の沖田の2名が参加し、半導体増幅器、金属磁性体の放射線照射試験とトモグラフィ技術に関する共同研究のポスター発表をおこなった(研究発表:雑誌論文1、学会発表1)。その後、杉山と合流し、CERNにおいて共同研究打ち合わせと広帯域空洞、半導体増幅器の開発状況を確認した。この打ち合わせでは国際共同研究の双方の加速器に対する貢献と継続の必要性について確認した。この共同研究打ち合わせに基づき、J-PARCで秋から窒化ガリウム半導体アンプの放射線照射試験を実施していた。これに続き、来年5月からCERNの照射施設でも試験を進める。 7月にはCERN主催の高周波システムに関する加速器スクールが開催された。これにJ-PARC(JAEA)から高周波システムを担当している不破氏を派遣した。このスクールは初めて金属磁性体を使った広帯域空洞の講義があった。また共同研究者Damerau氏が広帯域空洞を使ったビーム操作などの講義を行った。 10月にCERNでハドロンビームに関する会議(HB2023)が開催され、大森と田村が参加し、日欧の広帯域空洞とLLRFに関する口頭発表をおこなった(研究発表:学会発表2,3)。また会議参加者への施設ツアーでは大森が貢献したCERNの重イオン加速器と反陽子減速リングの空洞を紹介した。 11月にCERNでブースター加速器に携わっているGnemmi氏を招へいし、Paoluzzi氏とともにJ-PARCに滞在した。J-PARCではビーム調整に参加したほか、大森と開発している数十MHz帯の空洞測定を行った。この結果に基づき低パワーモデルでの動作試験を準備している。 また、長谷川と杉山は高校で国際共同研究の重要性についてのの出張授業を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の第一の目的であるブースター加速器の広帯域空洞立ち上げとPS の空洞をもちいたビームの高品質化の実現を達成することができた。現在もブースター加速器に設置した広帯域空洞は安定して稼働している。また、PSのダンパー空洞も順調に稼働し、LHC高輝度化に必要な性能を発揮している。今後予定しているLHCの長期停止(LS3)後に高品質のビームを使った運転が実現し、高輝度達成が期待されている。 第二の目的であった広帯域空洞を用いた新しいアイデアについては、ブースター加速器の広帯域空洞では3次高調波を混合するなど、当初の計画になかった性能向上を実現している。PSのダンパー空洞はLIUの当初計画に無かったバリアバケット型RF電圧を実現しSPSでの遅い取り出しユーザーへの高品質ビーム供給にも貢献している。さらに窒化ガリウム半導体アンプの開発が進んでおり、このアンプを厳しい放射線環境下で使用できるか確認するために日欧双方で放射線照射試験が進んでいる。これを用いてPS加速システムのビームフィードバックが向上することでビーム品質も向上し、より高強度のビーム加速の実現につながる。J-PARCでの放射線照射試験ではCERNで開発されたTIDと中性子線量を同時に測定できる放射線モニターを使用した。この線量を用いて、アンプ以外にもSuperKEKBや国際核融合炉ITERのNBI(中性ビーム入射)保護装置に使われている磁性材料の照射試験を実施し、ハドロン加速器以外の研究にも貢献することができた。
以上のように本研究で目指した二つの目的は達成することができた。さらに、窒化ガリウム半導体アンプの開発やそれに関連したITERなどの研究にも貢献できており、当初の計画以上に進展しているを選択した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はコロナの影響で1年延長しており、2024年度は最終年度となる。本研究において人的な交流、特に若手研究者間の交流が活発になったことにより、国際共著論文を多数生み出すことができた。この基礎となっているのはJ-PARCが世界に先駆けて開発した広帯域空洞技術であり、これに対してCERN以外にも協力が求められている。今後の研究の方向として、広帯域空洞技術をベースにCERNとの協力を継続・発展させるだけでなく、英国ラザフォードアップルトン研究所など、この技術の導入を進めようとしている機関との連携も進めていく。また、CERNのユーザー実験のASACUSAグループからもこの技術に関しての協力が求められている。この空洞に使われている金属磁性体は日本で開発されたものであり、また加速器に必要な大型サイズの磁性体を製造する装置(磁場中熱処理炉)はJ-PARC自身が開発した装置である、さらにこの材料を使った空洞開発はJ-PARCがリードしてきた。このため、この技術の普及はJ-PARCや日本の研究機関が優位性を発揮できる場所であるとともに責務でもある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はJ-PARCが世界に先駆けて開発した金属磁性体空洞技術がCERNの多数のシンクロトロンで活用されていることに基づき、日欧の加速器研究者が協力することで両者の加速器の性能を向上させることを目標としている。これに対し2019年に発生したコロナ禍により人的な交流が制限されていた。2022年に厳しい制限下ではあったが加速器の国際会議も開催され、交流再開の可能性がでたため、2022年執行予定分の一部を繰り越した。2023年にはCERNにおいて共同研究打ち合わせを実施し、この共同研究が日欧双方にとって大きな成果があったこと、継続する必要性が確認されている。2023年年度末時点もこの共同研究は継続中であり、進行中の空洞開発や半導体増幅器の耐放射線性試験があるため2024年度に一部予算を繰り越すこととした。繰り越した予算は2024年度内に使用する予定である。
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備考 |
広い意味での産業財産権として、2024年3月に高エネルギー加速器研究機構とプロテリアル社(旧日立金属株式会社)の間で本研究に関連し高エネルギー加速器研究機構が金属磁性体磁場中熱処理炉を有償で譲渡した。この装置とそのノウハウを使った鉄道、電力変換などへの応用を目的とした民生利用についても契約を取り交わしている。
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