研究実績の概要 |
本研究では、サンゴ骨格・鍾乳石・二枚貝など付加成長する炭酸塩試料について、高精度年代決定法と高解像度元素・同位体分析法を融合させることにより、過去の環境を長期間かつ高精度で復元することを目的とする。 2023年度はトバ事変として知られる約7万4千年前に起きたインドネシア・スマトラ島のトバ火山の噴火という環境激変イベント年代を含むことが先行分析で明らかになっている東ティモールの鍾乳石について解析を進めた。実体顕微鏡による観察とEPMAによる元素マッピングでは、噴火に関連したターゲット層付近は比較的暗色を示し、Mgが乏しいことが明らかとなった。またターゲット層に対して、二次元高解像度二次イオン質量分析計(NanoSIMS)を用い、 Mg, Sr, Ba, Al, Si, K, Fe, Mnを分析した結果、ターゲット層にてAlとSiが多く含まれる層が存在し、そこでは、Sr, Ba といった元素が比較的低い濃度となっていた。FeやMnは当該層で高くなっており、同時期に、鍾乳洞において滴下水の酸化還元状態が変化したことを示唆する結果が得られた。今後は硫黄やハロゲン元素など、火山性物質の変動を当該層で分析をすることで、この試料に刻まれたトバ火山の大噴火による環境変動史を詳細に読み取ることができると期待できる。 研究期間全体においては、国立台湾大学のSHEN教授との共同研究を通じて鍾乳石に対するU-Th年代測定と同位体・微量元素濃度測定を組み合わせることによって、氷期-間氷期の境界を確認するとともに現在から最終氷期に至る濃度変動データを得た。加えて、レーザーを用いた生物起源炭酸塩の微小領域における窒素同位体比測定手法を開発し、その手法を用いて二枚貝の微量元素濃度と環境変化の関係を調査するなど、2023年度の活動とあわせて継続的に炭酸塩試料の分析による環境復元に取り組み、十分な成果を報告した。
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