研究課題/領域番号 |
19KK0084
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
熊谷 博之 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10343758)
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研究分担者 |
堀田 耕平 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 助教 (20819122)
大倉 敬宏 京都大学, 理学研究科, 教授 (40233077)
楠本 成寿 京都大学, 理学研究科, 教授 (50338761)
大場 武 東海大学, 理学部, 教授 (60203915)
市原 寛 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (90553074)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | 噴火 |
研究実績の概要 |
フィリピン・タール火山で2020年1月12日に起こった大規模噴火の発生過程を解明するために、同火山に設置された地震観測網の連続地震データを用いて自己相関に基づく地震波干渉法解析を行い、2011年から噴火前までの各観測点直下のS波速度構造の時間変化を推定した。その結果、降雨等の影響によると考えられる年周変動がすべての観測点で見られ、そのうち噴火口に近い観測点においてのみ噴火の約1年前から年周変動から大きくずれる変化が見られた。その変化は同火山の地震活動度、合成開口レーダーから推定された地殻変動、さらに噴火口での二酸化炭素ガスの放出量とも同期していることが分かった。噴火前の活発な地震活動は、マグマ溜りへの新規のマグマが供給されたことにより周辺の応力場が変化することで発生したと解釈できる。その新規マグマから脱ガスが活発化することにより二酸化炭素ガスの放出が起こるとともに火道浅部の構造変化が起こり、その周辺の観測点でのS波速度構造の時間変化が生じたと考えられる。この結果は、タール火山における自己相関に基づく地震波干渉法が噴火前の前兆的な活動の検出に有効であることを示している。この手法はルーチン的な解析が可能であるため、今後の同火山の監視にも役立てることが出来るものである。 2020年の噴火以降は地震活動が低調となる一方で、2021年1月以降噴火口から1日5千~1万トンを超える大量の二酸化硫黄ガスが検出されている。さらに噴火前には観測されなかった火山性微動が発生していることが分かった。これらの微動は、マグマ溜り・火道システムにおけるマグマ対流とそれに伴う脱ガス過程と関係していると考えられる。タール火山は2020年の噴火により地震が多く発生する閉鎖的なシステムから、微動を伴う大量の脱ガスを行う開放的なシステムへ急激な変化が起こったことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が始まった直後の2020年度から昨年度まで、コロナ禍により日本からフィリピンへの出張が大きく制限された。さらに2020年1月に起こったタール火山の大規模な噴火により、火口がある火山島は大量の火山灰に覆われ入山が規制された。さらに噴火後も二酸化硫黄ガスの大量放出が続いており、火口周辺での現地観測が出来ない状態となっている。これにより当初予定していた火口周辺での電磁気や重力等の観測が行えていない。これにより進捗が一部遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
タール火山の噴火口からの二酸化硫黄ガスの観測を継続するとともに、同火山の地震観測網の連続地震波形データを用いて火山性微動を系統的に検出する。高周波地震波振幅を用いた震源決定から火山性微動の震源位置・規模の時間変化を推定し、二酸化硫黄ガスの放出との関係を調べる。その結果に基づき、マグマ溜り・火道システムにおけるマグマ対流とそれに伴うマグマ脱ガス過程の解釈を行う。現地調査が可能となれば電磁気・重力観測を行い、噴火前後の構造変化の推定を行うとともに、既存の電磁気・重力データの再解析を行い、噴火前の詳細な比抵抗構造および重力異常の推定を行うことで、タール火山におけるマグマ溜り・火道システムの状態を調べる。さらに2020年1月の大規模噴火に伴う地震および空振データの解析から、噴火推移の詳細な推定を行い、噴火に伴うマグマの移動過程を明らかにする。これらの解析結果について国内・国際学会で発表するとともに、論文としてまとめ国際誌への掲載を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
タール火山における大量の二酸化硫黄ガスの放出により現地調査が実施できなかったため。フィリピン火山地震研究所および可能となればタール火山の現地調査のための出張費、国内・国際学会における成果発表のための出張費、論文掲載費等に繰り越し経費を用いる。
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