研究課題/領域番号 |
19KK0093
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
河野 義生 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (20452683)
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研究分担者 |
近藤 望 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 特定研究員 (70824275)
桑原 秀治 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 助教 (50505394)
大平 格 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 研究員 (90873159)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | メルト / X線トモグラフィー / 弾性波速度 / 高圧 / メルト構造 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究実施計画において、4月と10-12月頃の2回、アメリカの放射光X線施設APSを訪問し、高圧放射光X線実験を行うことを計画していた。そのための準備として、APSの2020-1期のビームタイム申請を行いビームタイムが採択されていたが、新型コロナウィルスの影響により渡米が不可能となり、2020年度中は直接の渡米はできなかった。一方、2019年度に弾性波速度測定実験を行ったFe-Sメルトを含むかんらん岩の回収試料について、APSに試料を郵送し、APSのYanbin Wang博士、Mark Rivers博士との協働により2020年9月と2021年2月にX線トモグラフィー測定を行った。そして、これらの測定で得られたX線トモグラフィー結果から岩石中のFeSメルトの3次元分布構造の解析を行った。その結果、試料断面の電子顕微鏡観察による2次元のメルト構造解析では捉えることができなかったアスペクト比の小さいFeSメルトが多く存在していることを発見した。これらのX線トモグラフィー測定によるFeSメルトの3次元分布構造結果と、2019年度の弾性波速度測定で得られたFeSメルトによる弾性波速度低下の結果を組み合わせることにより、高圧下における岩石中のメルトの3次元分布構造とその影響による弾性波速度低下の関係を議論する。 また、高圧下におけるケイ酸塩メルトの圧縮挙動を理解するためのメルトの構造変化の研究について、APSの共同研究者との協働により、リモート操作による高圧放射光X線実験に成功した。愛媛大学において準備した試料と高圧実験セルを米国に郵送し、米国側の共同研究者により、リモート操作による放射光X線測定、高圧実験装置の準備を行った。2020年11月において、ケイ酸塩メルトの高圧X線構造測定実験をリモート操作で行い、高圧高温下における玄武岩メルトの構造結果を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により直接アメリカを訪問することはできなかったが、アメリカの放射光X施設APSの共同研究者との協働により、試料を郵送してのX線トモグラフィー測定、リモート操作による高圧放射光X線実験を行うことに成功した。特に、2019年度に弾性波速度測定を行ったFeSメルトを含むかんらん岩の実験後回収試料のX線トモグラフィー測定では、電子顕微鏡観察による試料断面の2次元観察では捉えることができなかった細長く連結したFeSメルトの存在を発見することに成功した。この結果は弾性波速度測定により得られているFeSメルトがかんらん岩の弾性波速度に及ぼす影響を議論する上で非常に重要なデータとなることが期待される。2021年2月の2回目のX線トモグラフィー測定結果については現在解析を進めており、その結果と合わせることにより、高圧下におけるかんらん岩中のFeSメルトの3次元分布構造と、その影響による弾性波速度変化の関係を議論し、論文を執筆することを計画している。 また、ケイ酸塩メルトやそのアナログ物質であるガラスの圧縮挙動を理解するために重要なメルトの構造測定実験について、APSの共同研究者との協働により、リモート実験で高圧放射光X線測定を行うことに成功した。2021年度も新型コロナウィルスの影響により直接アメリカを訪問することができない状況が続くと予想されるが、そのような状況下でもリモート実験によりケイ酸塩メルト・ガラスの高圧放射光X線測定実験を行うことが可能となった。 さらに、アメリカ側共同研究者のYanbin Wang博士との共同研究により行ったケイ酸塩メルトのアナログ物質であるSiO2ガラスの超高圧下における構造変化についての論文を高インパクトファクター雑誌であるPhysical Review Letters(インパクトファクター:8.4)に出版した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においても、新型コロナウィルスの影響が継続することが予想されるため、直接アメリカを訪問することは困難であると予想される。2020年度において、APSの共同研究者との協働により、試料を郵送してのX線トモグラフィー測定、リモート操作による高圧放射光X線実験の体制を確立しており、2021年度も同様の方法で研究を推進する予定である。一方、リモート実験では困難な実験や、実験効率の低下の問題を克服するため、日本の放射光X線施設SPring-8での実験を組み合わせて研究を推進する。 高圧下におけるメルト・ガラスの密度変化と圧縮曲線の理解のために、SPring-8において高圧下におけるケイ酸塩ガラスの弾性波速度、体積弾性率を測定することにより、ケイ酸塩ガラスの高圧下における密度変化を議論する。また、アメリカ側共同研究者のYanbin Wang博士との共同研究実験によりすでに得られている(Mg,Fe)SiO3ガラスの高圧X線トモグラフィー測定データについて解析を進めることにより、ケイ酸塩ガラスの高圧下における密度変化の理解を目指す。さらに、高圧下におけるケイ酸塩ガラスの密度変化の構造的要因を理解するために、APSのリモート実験を用いたケイ酸塩ガラスの高圧放射光X線実験を行う。一方、1気圧下におけるガラスの構造測定などのSPring-8でも行うことが可能な測定については、SPring-8での実験も組み合わせて行うことにより研究を推進する。 さらに、高圧下における岩石中のメルトの3次元分布構造の変化とそれに伴う弾性波速度変化の研究については、2019年度と2020年度に得られた弾性波速度測定結果とX線トモグラフィーによるFeSメルトの3次元分布構造結果を組み合わせることにより、FeSメルトの影響によるかんらん岩の弾性波速度変化について議論を行い、論文を執筆する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の研究実施計画では4月と10-12月頃の2回、アメリカの放射光X線施設APSを訪問し、現地での高圧放射光X線実験を行うことを計画していた。しかしながら、新型コロナウィルスの影響により2020年度中は米国訪問が不可能な状況が継続したため、直接の渡米はできなかった。そのため、渡米のために予定していた旅費が残額となり、次年度使用額が生じた。2021年度においても、新型コロナウィルスの影響が継続することが予想されるため、直接米国を訪問することは困難であると予想されるが、2020年度において、試料を郵送してのX線トモグラフィー測定、リモート操作による高圧放射光X線実験の体制を確立しており、2021年度も同様の方法で研究を遂行する予定である。一方、リモート実験では困難な実験や、実験効率の低下は避けられないため、それらの実験を補うために愛媛大学での室内実験や日本の放射光X線施設SPring-8における放射光X線測定を行うことを計画しており、それらの実験のために使用する予定である。
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