研究課題/領域番号 |
19KK0094
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野口 高明 京都大学, 理学研究科, 教授 (40222195)
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研究分担者 |
三宅 亮 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10324609)
松本 徹 九州大学, 基幹教育院, 特別研究員(PD) (80750455)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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キーワード | はやぶさ2 / 初期分析 / 宇宙風化 / リュウグウ |
研究実績の概要 |
今年度はコロナウイルスによる感染拡大の影響のため,研究のあらゆる面で問題が生じた。 コロナウイルスによる感染拡大の影響のため,海外のMin-Pet Fine班メンバーとの直接打合せは不可能だった。基本メール会議で対応した。国際会議も開催中止になり,グラスゴー大学にはリュウグウ試料を加工せずに持って行く計画についての相談はメール会議で行った。海外の研究者にはリュウグウ試料(加工品と未加工品)を日本から持って行くことを想定していたわけだが,コロナウイルスの感染状況は以前予断を許さぬ状況であることから,皆で相談した結果,直接の受取は困難であると判断した。試料紛失や加工試料の破損の可能性はあるが,郵送することにした。JAXAから小惑星イトカワ試料を配付したさいには紛失の問題が生じなかったFedEXを使い試料を輸送ことにした。そして,リュウグウの分析の予備実験が必要な国外の研究者に,FIB加工試料をFedEXを使って輸送した。特に紛失や試料破損の報告はなかったため,実際の試料もFedEXを用いて輸送する計画である。 今までイトカワ試料のハンドリングに用いてきたグローブボックスをリュウグウ試料のハンドリングで用いるための準備を行った。JAXAより,実際にリュウグウ試料の輸送に用いる容器と試料格納容器のスペア品を借用し,グローブボックス内で粒子をハンドリングするための各種ツールの開発を,九大理学部附属工場の協力の下で行った。また,これらのハンドリング機器の保管にもちいるデシケータや各種ピンセットを本研究費で購入した。昨年度,研究分担者の三宅准教授(京大理学部)の研究室に導入した回転ステージの既存の針用試料台の高さを調整したが,まだ問題が残っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,次年度にリュウグウ試料を受け入れられるように,小惑星イトカワの試料輸送容器に特化したものを,今回専用に作り直した。小惑星リュウグウの試料輸送容器と試料格納容器は,小惑星イトカワ用のものとは全く違う形状のものが新たに開発されたためである。なかなかJAXAより新開発容器の借用許可が下りず,秋になって実際に使用する容器類のスペア品を借用できることになった。それからは,それらの容器に合わせたハンドリング機器の開発を理学部附属工場と行うことができた。まず,容器の形状と扱い方に合わせて顕微鏡のセッティングを大きく変更したため,マイクロマニピュレータを取り付けるアダプタを作成し,試料容器に合わせた顕微鏡ステージを作成した。イトカワ試料のマイクロマニピュレーションの場合,静電気によってタングステンプローブに付着させていたが,静電気でうまく付着されない,あるいは,プローブ先端から試料が取れなくなるという問題があった。そこで,今回は,吸引ピンセットに変更し,吸着と離脱が容易にできるようにした。吸引にもちいるガラスキャピラリの形状が問題になる。うまく先端に吸引されるが,試料を破壊せず,また,試料が外れやすい形状を検討する必要がある。ガラスキャピラリの加工機は既存機器として保有しているため,キャピラリの加工条件を標準の細い針状の形状から変更して,扱いやすい形状のものを検討した。市販品も購入して比較した。この検討には,本研究費で購入したTarda隕石と既存のTagish Lake隕石を砕いた粉末を用いた。ほぼ満足のいく形状を作れるようになった。 昨年度,研究分担者の三宅准教授(京大理学部)の研究室に導入した回転ステージの観察は問題なくなった。放射光実験と共用をする点でまだ問題がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度ははやぶさ2初期分析チームのMin-Pet Fineサブチームとして,大きさ100ミクロン程度の微粒子の鉱物・岩石学的特徴を明らかにする。大気のない天体である小惑星リュウグウ表面から回収された試料は,低エネルギープラズマ流である太陽風や微小隕石の衝突の影響を受けていると予想される。そのような小惑星表面過程(宇宙風化という)の影響を受けた物質は,小惑星リュウグウを作っている物質に似ていると考えられているCIやCM炭素質コンドライト隕石からは発見されておらず,本研究で初めて明らかにできると考えられる。 研究代表者が九州大学から京都大学に異動したため,九州大学のプラズマFIB-SEMと京都大学のFIB-SEMの両方を使用して試料作成を行う。プラズマFIB-SEMを使っての地球外物質の薄膜試料作成手順の確立を4と5月で行う。6月半ばに小惑星リュウグウ試料を受け取った後は毎週,京都と福岡を往復して薄膜試料を作製する。大気遮断機構付であることを生かし,我々3名の研究する試料は大気に触れずに小惑星リュウグウの宇宙風化作用を調べる。京都大学のFIB-SEMで配布用試料を加工し国内外の研究者に配付し,国際的に小惑星リュウグウの宇宙風化作用を調べる。その結果については,Web会議システムを使って随時検討を行い,初期成果論文を作成する。 当初計画では,海外の研究者に小惑星リュウグウの薄膜試料を持って行き共同研究を行う計画であった。しかし,昨今のCOVID-19の感染状況とワクチン接種状況を考慮すると,海外の研究者を訪問することは現実的ではない。このため,非常に残念ではあるが,郵送による試料配付に切り替える。本年度の輸送テストでFedExを使った郵送で試料損傷の報告はなかったため,FedExを用いる。試料が届かない可能性も考慮し,1試料ずつ海外の研究者に配付する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度,海外に出張することがコロナウィルスの流行のため不可能であったため,全てを使い切ることはしなかった。年度末に研究代表者が京都大学に異動したのに応じて,はやぶさ2の国際分析チームとして分析を行うため,九州大学と京都大学を毎週往復して試料作成や試料観察を行う必要があり,翌年度分として請求した助成金と合わせて,京都福岡の往復旅費及び福岡での宿泊費が新たに発生することになったため,その国内旅費として使用する計画である。
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