研究課題/領域番号 |
19KK0094
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野口 高明 京都大学, 理学研究科, 教授 (40222195)
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研究分担者 |
三宅 亮 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10324609)
松本 徹 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (80750455)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 小惑星 / リュウグウ / 走査透過電子顕微鏡 / X線吸収端微細構造 / 宇宙風化 |
研究実績の概要 |
本年度は本研究の目的であった「はやぶさ2試料の初期分析」を行った(実際は,令和4年5月末まで継続中である)。しかし,海外のMin-Pet Fine班メンバーに試料を持って行き直接打合せしながら測定することはCOVID-19の蔓延のため不可能だった。研究の打合せは基本メール会議で対応した。国際会議もWeb開催となった。 海外の研究者にリュウグウ試料(加工品と未加工品)を日本から持って行くことを当初案では想定していたが,すべてFedEXを使い試料を輸送した。試料の途中紛失や試料破損の連絡も無く,この方法での試料配付はおおむね順調であった。 本研究の国際チームで研究する予定であった小惑星リュウグウの宇宙風化組織の研究は困難を極めた。小惑星リュウグウの属するC型小惑星における宇宙風化組織がどのようなものであるかという予想もはっきりしていなかっただけでなく,その予想と類似した組織を持つ試料の発見に試料配付から2ヶ月以上かかった。さらに,そのような組織を持つ試料は配付試料の5%強にしか見られなかったためである。当初予定案ではすぐに宇宙風化組織が見つかり,各研究者に宇宙風化組織を持つ試料を複数持って行くという計画であったが,それは非常に困難だったと考えられる。実際には,当初予定よりも遙かに時間が経ってから宇宙風化組織のある試料とない試料を送り比較研究していただいた。さらに,それでは観察数が少ないため,各研究者に相当数の試料を配付し,各研究者に宇宙風化組織を持つ試料を自ら探してもらい研究を行ってもらった。必要に応じて何名かの研究者には追加でも試料を送った。本研究費を使うことで,国外の研究者だけでものべ約50回ものFedEXを使った試料配付を行うことができた。国際チームとしての最初の研究成果は,研究代表者を筆頭著者として現在著名国際誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年6月にリュウグウ試料を受け入れて研究を開始した。申請者らは,「はやぶさ2」初期分析チームのMin-Pet Fineサブチーム(通称,砂班)として,大きさ100ミクロン程度の微粒子の鉱物・岩石学的特徴を明らかにする予定であった。配付された試料は2回の採集地点の試料はそれぞれ,平均径約70ミクロンと約50ミクロンしかなかった。このため,4と5月に検討した試料固定方法ではうまくいかず,実際に試料の固定を行い走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察を行い結果をフィードバックして固定方法の改良を行った。 6月から8月前半まで,宇宙風化組織を持つ試料を我々は発見することができなかった。このため,まず試料の鉱物学的特徴を明らかにすることを行うことに変更し試料配付を行った。8月初めに化学分析担当班の北海道大学圦本教授より,研磨断面試料断面に特徴的な組織が観察されるという連絡をいただいた。その試料を送っていただいて(走査)透過電子顕微鏡((S)TEM)観察したところ,微小隕石衝突の影響で溶融した物質であろうと推測された。その試料からは,(S)TEM観察用試料を作成させていただき海外の研究者に配布した。宇宙風化組織を持つ試料の割合は非常に低いことを研究代表者らは認識し,多数の試料をFE-SEM観察することに切り替え,配付試料からも宇宙風化組織を見いだすことができた。そして,微小隕石衝突だけでなく太陽風照射による宇宙風化と考えられる組織も見いだすことができた。そして,2021年11月に「はやぶさシンポジウム」で途中経過を報告し,2022年3月には「Lunar and Planetary Science Conference」においては,研究代表者,研究分担者の松本博士,本研究共同研究者のThompson博士が口頭発表した。他にもポスターセッション発表を多数行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
初期成果として投稿した論文はまだAcceptされてはいないため,まずは,初期成果論文のAcceptと出版が本年度の最重要課題である。出版費用は各自持ちになるため,本研究費での支払いを予定している。また, 5月末までは,「はやぶさ2初期分析チーム砂班」として研究を続行する。研究期間終了前に,初期分析として更に多くの論文を作成するための打合せを行い,本年度内に4-5本の論文を初期分析成果論文として投稿する。そのための打合せと執筆中の打合せも,Web会議システムを使って随時検討を行う予定である。研究成果は,すでに3月にもLunar and Planetary Science Conferenceで報告したが,さらに,Meteoritical Society Annual MeetingやMicroscopy and Microanalysis 2022等の海外の学会で報告を行う予定である。COVID-19の感染状況は徐々に減少の傾向を見せてはいるが,研究代表者の野口,分担者の松本ともWebでの参加を想定している。 6月からは国際公募分析試料の配布が開始される。研究代表者の野口と分担者の松本は公募分析に申請済みである。試料が配付された場合は,宇宙風化のより詳細な研究を行う予定である。また,研究代表者の野口は本研究共同研究者のBridges教授の挙動研究者としてリュウグウ試料の加工分析の一部を担当する予定である。学会発表と同様に,共同研究者に試料を持って行き一緒に分析することはあまり現実的ではないため,郵送による試料配付となると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
はやぶさ試料の分析のためにグローブボックスをもう1台購入しようとしたが,予想以上に納品に時間がかかることになってしまい,年度内の納品ができないことが判明した。このため,次年度の早い時期に改めて発注し直すことに変更し,グローブボックスのための予算を次年度使用金とすることにした。
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