研究課題/領域番号 |
19KK0100
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金井 浩 東北大学, 工学研究科, 教授 (10185895)
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研究分担者 |
荒川 元孝 東北大学, 医工学研究科, 准教授 (00333865)
森 翔平 東北大学, 工学研究科, 助教 (50815149)
高瀬 圭 東北大学, 医学系研究科, 教授 (60361094)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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キーワード | 動脈内膜弾性板表面粗さ / 表面粗さ計測 / 血管内膜弾性板欠損 / 粥状動脈硬化症 / 医用超音波計測 / 非侵襲的早期診断 |
研究実績の概要 |
近年,動脈壁の内側を裏打ちする内膜の弾性板は,数日間,高血圧にさらされただけで亀裂や断裂が生じることがわかってきた。さらに内膜弾性板の欠損部の隙間を通し,血液中の過剰LDLコレステロールが動脈壁の中膜に入り,惹起された炎症が粥状動脈硬化症に至るメカニズムが解明された。 本研究代表者は,「動脈の内膜弾性板の表面粗さ」を皮膚から評価できれば,動脈硬化症の「極早期診断」が可能になるとの独自の発想に至った。しかしMRI等汎用画像診断技術では,空間分解能の点で厚さ数ミクロンの内弾性板の欠損を非侵襲的には観察できない。 本研究では,この課題の解決を目指し,動脈壁の内膜表面に沿った粗さの,超音波による非侵襲的,高精度計測を実現し,「動脈壁の内弾性板欠損の可視化」という医療診断分野を開拓し,まだ修復可能である極早期段階での動脈硬化症の診断と治療を目的としている。 本年度は,本研究代表者グループと,デンマーク工科大学 Wilhjelm 教授による動脈硬化進展に関する長年の深い知見を融合するため,国際共同研究を行ない,当初計画に基づいて研究を格段に発展させた。 その結果,頸動脈を1本の超音波ビーム下で観察し,収縮に伴って血管壁のみが血管軸方向に移動することを確認し,さらに超音波ビーム上の反射波の位相を用いることで,超音波ビームの走査では途中の媒質の音速の不均一性の影響を受けてしまうが,そうした影響を全く受けずに,壁の波長未満の微小な表面粗さを高精度に推定できることを示した。これによって,極早期段階での動脈硬化症の診断と治療を実現する第一歩が形成されたと言える。 同時に,本共同研究を通し,若手研究者と優秀な学生を養成するための礎を築くことができた。これによって超音波医学に関し,デンマークのみならず欧州における国際共同研究の基盤の更なる強化が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,3名をデンマーク工科大学のWilhjelm教授の下に派遣し,以下の研究を進めた。 (a) 拍動による半径方向の変位を相殺して,血管内膜の粗さをサブミクロンオーダで計測できる手法の原理検討と精度評価 本研究グループによる予備的なファントム実験では,拍動による血管径方向の動きがなければ,表面粗さをサブミクロンオーダで高精度推定できる。しかし,拍動のあるヒト in vivo 実験へは適用できないため,多数の超音波ビームによる同時計測データを活用し,拍動による半径方向成分を相殺し,微小な粗さ推定の原理を開発し,実証実験を行った。 (b) 計測する超音波ビームを多数本に拡大し,内膜表面に沿った2次元曲面上の粗さ推定方法とシステム構築,その計測限界に関する検討(若手: 森, Wilhjelm, @デンマーク工科大) 超音波ビーム間隔(150ミクロン)は,1拍内で血管が自ら移動する距離よりも小さいため,重なりを利用すれば超音波プローブの範囲(30 mm)に関する表面粗さを一度に計測できる。これらの原理をファントム実験により確認し修正しながら精度向上を図った。そのため,研究者(荒川)が,2020年2月にデンマークに渡航し,さらに若手研究者(森)が学生1名とともに,2020年3月にデンマークに渡航し,研究を進めた。デンマーク工科大学において精巧なファントムを作製し,帰国後,実験によって評価を行った。 これらの進捗状況から,今年度の当初の計画がほぼ達成でき,「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実績を踏まえて,次年度以降は,以下の課題解決を推進する。 令和2年度:血管が傾いている場合,および血管の軸方向の動きが超音波ビームに垂直でない場合への原理的検討(森, 荒川, 金井, @東北大学) そのため,長軸方向変位を推定するブロックマッチングの精度を含め,壁の2次元的な動きを高精度に計測するための原理を検討する。 令和2年度:動脈の摘出血管を用いた提案手法の有効性と限界を示す実験(Wilhjelm, 若手: 森, @デンマーク工科大) レーザにより表面粗さの真値を計測可能なファントムと豚摘出動脈に対して本手法を適用し,提案法の有効性と限界を示すと共に,新たな課題が生じれば検討する。そのため,若手研究者(森)が,2020年10~12月にデンマークに再渡航し,研究を行う。デンマーク工科大学において,精巧な器具を用いて,動物の摘出血管のホルマリン固定時の変形を防ぎ,脈波を用いた実験によって,手法の精度評価を行うとともに,計測限界を明らかにする。 令和3年度:計測システムをヒトへ適用し,動脈壁表面粗さ計測の医学的意義を示し,本計測法の医療応用実現を目指す(高瀬, 荒川, @東北大学) 上の検討をもとに製作した臨床評価用診断システムを,健常者10名,高脂血症患者10名,粥状動脈硬化症患者10名,糖尿病患者10名に適用し,それらのグループ間の表面粗さの差を解析し,動脈壁表面粗さ計測の医学的意義を示す。 令和3年度:総括(全員) 本研究によって得られた実験結果(精度,限界),およびヒトへの適用結果をもとに,医療応用の可能性と医学的意義を示す。同時に国際的に活躍できる若手研究者の養成を行う。これらの成果をもとに,本研究の臨床応用を目指し,東北大学臨床研究推進センターに日本医療研究開発機構(AMED)のシーズ登録を行い,保険収載に向けた治験を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い,海外出張の自粛が求められ,旅費を十分に使うことができなかった。また,消耗品の注文を行っても,中国からの輸入ができず,納品を行うことができなかったことにより、次年度使用額が生じた。デンマーク工科大学で効率良く研究が出来るように、計測ソフトの開発に必要なメモリモジュールの増設や,事前準備としての基礎実験に使用する研究用プローブを特注する予定である。
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