研究課題/領域番号 |
19KK0104
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
末益 崇 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40282339)
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研究分担者 |
本多 周太 関西大学, システム理工学部, 准教授 (00402553)
中堂 博之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (30455282)
柳原 英人 筑波大学, 数理物質系, 教授 (50302386)
奥村 宏典 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80756750)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | 垂直磁気異方性 / 電流駆動磁壁移動 / フェリ磁性体 / スピン移行トルク |
研究実績の概要 |
本研究では、フェリ磁性体Mn4Nをベースとする新規スピントロニクス材料において、超高速の磁壁移動を実現することを目的とする。まず、チタン酸ストロンチウム基板上にエピタキシャル成長したMn4N膜を幅1-3マイクロメートル程度の細線に加工し、パルス電流の注入により、磁壁移動速度を計測したところ、最大900m/sを得た。この値は、外部磁場がなく、スピン移行トルクのみで得られた値として、室温で最大の値である。 フェリ磁性体では、副格子を構成するMnのスピン角運動量の総和がゼロになる補償点において、磁壁の移動速度が発散すると期待される。そのような候補材料としてMn4NにNiを添加したMn(4-x)Ni(x)N膜を取り上げ、これらの膜をエピタキシャル成長した。磁化特性および磁気輸送特性から、室温で垂直磁気異方性を保持しつつ、磁化がゼロに近づくNi組成を見出した。その結果、Ni組成x=0.1と0.25で、垂直磁気異方性を保持しながら、異常ホール係数の符号が急峻に変化したこと、飽和磁化がxの増加とともにx=0.2程度まで直線的に減少し増加に転じたこと、さらに、磁化の温度特性が変則的であることの3点から、x=0.1と0.25の間に磁化補償点があると予想した。この予想に基づき、X線磁気円二色性(XMCD)測定をx=0.1と0.25のNi組成をもつ試料に対して行い、両者で、XASおよびXMCDスペクトルから、NiはコーナーサイトのMnを置換すること、さらに、MnおよびNiの磁気モーメントが両者で反転していることを見出した。これら一連の結果により、Mn(4-x)Ni(x)N膜では、x=0.1と0.25の間で、磁化がゼロになることを実験で証明した。このNi組成周辺で、磁壁の移動速度は格段に大きくなると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Mn4Nにおいて、スピン移行トルクのみで最速の電流駆動磁壁移動速度(900m/s)を達成したこと、さらに、この値を凌駕する可能性のある材料として、Mn(4-x)Ni(x)Nを選び、磁気および磁気輸送特性から、磁化補償を達成するNi組成を絞り込めた。このため、2019年度に達成した磁壁移動速度を大幅に更新することが期待される。以上のことから、本研究は、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究により、X線磁気円二色性(XMCD)測定より、Mn(4-x)Ni(x)N膜では、x=0.1と0.25のNi組成で、飽和磁化がゼロになることが分かった。角運動量補償点も、同様の範囲にあると予想される。このため、Ni組成をx=0.1と0.25の間でさらに細かく振った試料を作製し、それらを細線加工して、電流駆動磁壁移動速度を室温で測定する。 また、これまではスピン移行トルクによる磁壁移動を考えてきたが、Mn(4-x)Ni(x)N膜を超薄膜化することで、スピン軌道トルクによる磁壁移動も期待できる。このため、まず、Mn4N膜において、どの厚さまで薄く、エピタキシャル成長が可能であるかも調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の一人が、物品費として使用を予定していた70万円のうち、コロナの影響のため物品の発注ができず、20万円弱が未使用に終わったことが、次年度使用額が生じた理由である。物品の購入が可能になれば、当初予定の通り、使用する計画である。
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