研究課題/領域番号 |
19KK0108
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清田 隆 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70431814)
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研究分担者 |
池田 隆明 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (40443650)
小長井 一男 特定非営利活動法人 国際斜面災害研究機構, 研究部, 学術代表 (50126471)
井上 和真 群馬工業高等専門学校, 環境都市工学科, 助教 (50825982)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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キーワード | 液状化 / 室内土質試験 / 地下水環境 / 現場調査 |
研究実績の概要 |
本研究は、2018年インドネシア・スラウェシ島地震で発生した液状化地盤流動の発生メカニズム解明に取り組むものである。2020年度はCOVID-19の蔓延により予定していた現場調査を行うことができなかったが、共同研究機関ITBのDr. Nawirと共に原位置試料を含む砂質土を対象とした系統的な室内土質試験、模型実験、液状化の評価を実施した。 過去の現場調査により、流動域の地下水は相当の被圧を受けていた可能性が示唆されていたことから、原位置密度に調整した供試体を作製し、中空ねじりせん断試験機により、緩傾斜地盤への被圧地下水の流入を考慮した一連のせん断試験を実施した。水の供試体への流入は背圧の増加により行ったが、それにより有効応力は低下し、想定される変相線を越えた付近からせん断ひずみの増加と体積ひずみの低下(膨張)が顕著になることが確認された。本実験のように間隙水圧を強制的に増加させた場合、せん断ひずみの増加と共に供試体は吸水して膨張し続けるが、初期密度に依存する限界ひずみに達すると土粒子間のかみ合わせが不安定になり、たとえ地盤傾斜が非常に緩くても泥濘化を伴う顕著な流動に至ることが示された。 更に2020年度は、地震前の地形と地下水環境を想定した浸透流解析を実施し、初期に原地盤の深部(GL-10-15m程度)で生じていた被圧の程度を推定した。また、顕著な地盤流動が発生した箇所でのボーリング調査結果を利用し、浸透流解析で得られた被圧を想定した簡易液状化判定も実施している。その結果、原位置で想定される地表面加速度(約300gal)では、通常の地下水環境では液状化は地表面のみでしか生じないが、被圧を考慮した場合は深部でも液状化は生じた可能性が高い結果が得られた。これは、深部の液状化により大量の被圧水が地表面に流入する可能性を示唆するものであり、地盤流動のメカニズム解明に近づくものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度はCOVID-19の影響によりインドネシアへの渡航が不可能になり、被災地での現場調査を実施することができなかった。本研究の当初の計画では、長距離流動地域での表面波探査や微動探査を行う予定であったため、その点では研究は計画通りではないといえる。しかし、それに代わる形で国際共同研究の機関と共に現地で採取された地盤試料を用いた実験や数値解析、およびCOVID-19以前に実施した現場調査結果を利用した分析が行われており、全体としての進捗は必ずしも悪くない。 上記に述べた実績以外の活動・成果としては、被災現場の地形を考慮した一連の模型実験を実施している。土槽に緩い斜面を砂試料で作成し、振動台実験を実施しているが、これまでの実験では地震動による慣性力や通常の液状化だけでは流動現象は発生しないことが示されている。一方、現場調査では表層地盤が透水性の低い表土で覆われていたが、それを模擬してDLクレイで表層を覆って斜面内の水圧を高め被圧状態を模擬すると、現場の証言でも得られたような地盤の隆起とそれに続く流動が生じることが確認された。 更に、地震発生前の数値標高モデルと地震発生後の干渉SAR情報を用いて、地震前後、および地震後も継続する被災地域の地盤変状の抽出も試みている。これにより、大規模な流動地域以外の場所でも有意な地盤変状が生じていることが確認された。また、既に入手している地震観測地点や流動時域内外のボーリング柱状図を用い、地盤のモデル化と仮想地震動による応答解析も実施している。これらはCOVID-19の状況が落ち着いた際に実施される現場調査で情報が得られた場合に、速やかに詳細な分析を行えるように行っている準備作業である。 このように、現場調査は当初計画通り行われていないが、それを補う多くの作業を継続しており、総合的には順調に研究がおこなわれていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度はこれまで実施してきた一連の実験と地盤変状分析の継続に加え、COVID-19の状況が沈静することを前提に現場調査を計画している。 地盤流動の空間的規模、およびその発生メカニズムの検討にあたっては、地盤特性の情報が不可欠であることから、原位置で表面波探査を実施し流動層の特定を行う。また、地盤流動による地形変化は地震前後のデジタル地形図と干渉SAR解析を基本とし、必要に応じて現場でUAVによる地形測量を実施する。この解析結果を反映して地盤流動の実態と影響範囲に関する検討を行う。また、これまでのフィールド調査により、流動に及ぼした「被圧地下水」の役割が重要と判断されることから、地震前の広域的地下水環境を、現場踏査と浸透流解析を通じて評価する。現場調査は、研究代表者と分担者、および海外共同研究者の全員が担当する。 既に原位置試料を用いた室内土質試験を研究代表者と海外共同研究者がそれぞれの機関において実施しているが、令和3年度でも原位置試料(不撹乱試料)を採取して室内土質試験を継続する。なお、地震観測は1地点のみであったが、研究分担者の井上と池田は、被災地周辺の微動観測を実施して、流動箇所の地震動の推定と地下水の被圧状態を考慮した液状化判定を実施する。 令和3年度も前年度に引き続き、流動メカニズム解明のため特殊な室内土質試験を実施する。せん断ひずみ100%まで計測可能な中空ねじり試験を実施するが、実験では原位置の緩斜面を考慮した応力状態、およびせん断応力一定条件・排水条件下で背圧の制御による「被圧」の模擬を試みる。また、流動を引き起こした地表への大量の地下水流入原因として断層の影響が指摘されてきている。これは、断層内の温かい地下水が断層運動による非排水せん断により突沸したものではという仮説であるが、本研究ではこれをユニークな実験で模擬することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により延期となったインドネシアでの現地調査を2021年度に実施するための費用である。これらは研究チームの渡航費、宿泊費および現場作業の諸経費に充てられる。
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