研究課題/領域番号 |
19KK0115
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
吉澤 望 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (40349832)
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研究分担者 |
高瀬 幸造 東京理科大学, 理工学部建築学科, 講師 (20739148)
谷口 景一朗 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (80746496)
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研究期間 (年度) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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キーワード | Volume Photon Map / 光環境の3次元記述手法 / Visual Light Field / Physical Light Field / Photon Flow |
研究実績の概要 |
本研究は、持続可能性と建築環境快適性の両立を目指した次世代の昼光照明設計手法の提案に向けて、昼光照明設計におけるPhoton Map アルゴリズムの活用では世界トップの実績を持つHochschule Luzernとの共同研究によって、以下の3項目の研究・開発を進めることを目標としている:1)Volume Photon Map アルゴリズムを用いた光環境を3次元的に可視化する手法の確立、2)本手法により人が認識する光の場を従来よりも正しく予測できることを被験者実験を通して明らかにする、3)最新の昼光導入装置を備えた空間での検証を通して昼光照明設計のためのツールとしての有効性を立証する。 研究2年目となる2020年度には、上記の1)および2)について、以下の成果を得た。 1) Volume Photon Mapを生かした3次元可視化手法をPhoton Flowと名づけ、RadianceのコマンドMkpmapを拡張して、直接Photon Flowを算出できるようにした。さらに消失係数等を調整することにより、空間内の光場light fieldの状態を定量的に記述するスカラー照度をVolume Photon Mappingにより直接算出できるようにした。またPhoton Flowの有効性を実空間(風の丘葬祭場)における実測との比較を通して示した。 2)ある実空間内のPhoton Flowをモニター上に提示して、被験者にGauge Objectと呼ぶ球に生じる陰影を予測させることにより、Light Fieldが正しく知覚できているかどうかを判定する。2020年度は、Gauge Objectの位置を変化させた条件を用いた第2回目の被験者実験を日本において実施した。これにより本記述手法により人が認識する光の場Visual Light Fieldを正しく予測できる可能性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度に予定していたVolume Photon Mapアルゴリズムを利用した光環境の3次元記述手法の確立と、Photon Flowを計算する過程で直接スカラー照度を求める手法の構築と照明シミュレーションプログラムRadianceへの組み込みについては、ほぼ予定通り終了した。また本研究で開発した光環境の3次元記述手法Photon Flowの効果を実際の空間において検証するために、2020年11月に風の丘葬祭場における実測調査を実施し、実測値とシミュレーション結果の比較検証を進めている。この成果は第1報目の論文としてLighting Research and Technologyに2021年6月に投稿する予定で現在準備を進めている。さらに、3次元記述手法を用いたVisual Light Fieldの予測については、2021年夏季に第2回目の被験者実験を日本において実施できており、第2報目の論文の準備が進んでいる。またPhoton Flowからスカラー放射照度を算出することにより人体への昼光による熱放射環境を予測する手法を構築しており、第3報目の論文も既に準備中である。 2020年度後半にはHochschule Luzern, HSLUに研究代表者・研究分担者・研究協力学生が訪問し、Goniophotometerと検証用の昼光導入装置の事前調査、及び実験解析・分析と論文執筆を共同で進める予定であったが、コロナ禍のため、さらに延期となってしまっている。ただし、月2-3回程度のオンライン会議を共同研究者のDr.Roland Schregleと実施することにより、実験解析・分析やPhoton Flowの計算アルゴリムの確立と検証・Radianceへの組み込みについては、大幅な遅れはなく進行している。
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今後の研究の推進方策 |
当初目標としていた1)Volume Photon Map アルゴリズムを用いて光環境Light Fieldを3次元的に可視化し、さらに空間照度をPhoton Mapping計算上で直接算出する手法の確立、2) 新たな3次元記述手法Photon Flowを用いたVisual Light Fieldの予測に関する被験者実験、についてはほぼ終了しているため、2021年度は論文投稿(2報分)を進める予定である。なおVisual Light Fieldが光環境を把握する上で果たしている役割を検証するための追加の被験者実験を2021年度夏季に実施する予定で準備を進めている。また若手研究分担者が特に関わる熱環境への応用については、Photon Flowからスカラー放射照度を算出することにより人体への昼光による熱放射環境を予測する手法を新たに提案する予定で、3報目の論文を投稿予定である。なお本来であれば2021年8月のRadiance Workshop(スペイン)で発表予定であったが、現段階では対面開催予定となっており、参加見込みが立っていない。 残りの3) 昼光導入装置を備えた空間での検証については、コロナ禍のために、現状ではHochschule Luzern, HSLU への訪問見通しが立っていないため、HSLU側のGoniophotometer計測責任者(Lars O Grobe)を通してBSDFsの既存データを取得することにより、シミュレーションでの検証を進める予定としている。ただし2021年度後半に現地訪問が可能になった場合は、研究代表者・研究分担者・研究協力学生がHSLUに赴き、対象空間におけるLightFieldの実測(魚眼レンズを用いた輝度測定)等を現地において共同研究者のDr.Roland Schregleと実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度3月に1回、さらに2020年度に2回予定していたHochschule Luzern(スイス)への渡航、及びRadiance Workshopでの発表が、コロナ禍により全て延期となってしまったため、当初確保していた交通費・滞在費・学会参加費等が全て持ち越しとなった。2021年度の状況も完全に見通せていないが、現段階では2021年度後半に数回Hochschule Luzern(スイス)と訪れ、Goniophotometerによる昼光導入装置実測や、RadianceにおけるVolume Photon Mappingアルゴリズムを活用したPhoton Flow計算プログラムの習得(若手研究者)等を進める予定とする。Hochschule Luzern(スイス)訪問には、研究代表者・共同研究者2名・研究協力者(大学院生2名)の計5名が参加する。8月に対面で実施される予定のRadiance Workshop(スペイン)については、日本からの渡航が難しい場合は、共同研究者のDr.Roland Schregleに研究成果の発表を依頼中でそのための経費を助成金から支出したい。なお仮に2021年度中も渡航が難しくなった場合は、補助事業期間延長承認申請を出して、2022年度にHochschule Luzern(スイス)での実測・検証を実施するとともに、国際学会での研究成果発表を行う。なお2021年度は海外ジャーナルの3報投稿予定であり、オープンアクセス化に伴う費用等を助成金の中から支出したい。
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